日立巡検の資料

  2000.12.23 萩谷 宏

 当日配布のキーワード解説

 露頭写真など

*日程

 2001.1.6(土曜)

 9:45 常磐線日立駅 北口改札出口集合。(跨線橋を渡った進行方向・山側の出口)
 日鉱記念館見学、日立鉱山周辺の地質を見学、など。

 16:00 日立駅解散。
 (日立駅までの交通については後述。)

*連絡先

 萩谷 宏 tel/fax:03-5910-6552 phs.070-6115-9888 〒177-0041練馬区石神井町1-21-6-307 

*見学先について

■名 称:日鉱記念館
■所 在 地:〒317 茨城県日立市宮田町3585
■連 絡 先:TEL:0294-21-8411
■アクセス:常磐線日立駅下車、バス「東河内」行、日鉱記念館前下車
■入 場 料:無料
■開館時間:AM9:00〜PM4:00
  ■所要時間:約1時間〜2時間
■休 館 日:毎週月曜と、第2,4,5日曜、祭日
■駐 車 場:2ヶ所。50台程度。かなり余裕はある。
■お薦め度:☆☆☆☆
■コメント:日本鉱業、日立製作所などの企業群のルーツ、日立鉱山跡に建て られた資料館。日立鉱山だけでなく、日本鉱業が経営した全国の鉱山関係施設 の記録を紹介する色合いが強い。創業者久原房之助が、小坂での成功に続いて 手がけた場所であり、「苦心惨憺処」とした場所でもある。日本鉱業は合併・ 分割されて、現在はジャパンエナジー・日鉱金属など。
 探鉱、鉱石採掘、製錬、電力供給、輸送など、鉱山を支える周辺の設備を含 め、鉱山関係の資料が充実している。別館に鉱山内で使用した大型の掘削機械 なども時代を追って展示してあり、煙害調査の試験の様子や、標本室には各地 の鉱石や脈石鉱物なども見ることができる。
 産業と自然、人間生活との関わりを考える上で参考になる。

*地質のポイント

 1981年に閉山した日立鉱山は、阿武隈山地南端に位置する変成岩地帯、通称多賀山地と呼ばれる山地の中央にある。遠方から見ると、高度200−400mのなだらかな山頂部の地形と、突出した高鈴山、神峰山などの浸食残丘(モナドノック)がよくわかる。山地内部は隆起による地形の若返りが起こっていて、なだらかな山頂部とは対称的に、河川により急峻な谷が形成されている。山地の海岸側には海岸段丘が発達し、第四紀に隆起したものと推定されている。
 阿武隈山地(阿武隈高地)は面積の約8割を花崗岩類が占めて、その他に御斎所・竹貫変成岩類、八茎変成岩、松ヶ平変成岩類などの他、相馬・八茎の古生層、古生層を原岩とする日立変成岩類、超塩基性岩類などからなる。花崗岩類の放射年代はK-Ar法で100-120Ma(白亜紀前期)に集中する。

 日立鉱床を含む日立変成岩は、緑色片岩相−緑廉石角閃岩相−角閃岩相の鉱物組み合わせを持つ、低圧中間群の変成相系列を示す。東側で変成度が高く、入四間花崗閃緑岩が貫入している北西部で変成度が高くなっている。分布域南西部の黒雲母片麻岩を主とする西堂平片麻岩類は、藍晶石−紅柱石−珪線石が共存する岩石を含み、阿武隈帯の変成史を考える上で、議論が多い。
 日立変成岩の原岩は、東部の大雄院杉本の石灰岩から、石炭紀前期のサンゴ化石が確認され、またペルム紀前期のフズリナも東部の粘板岩中の石灰岩レンズから産出が報告されていることから、古生代後期の火山岩・堆積岩類を主とするものと考えられている。

 日立鉱床は、別子などと類似する含銅硫化鉄鉱床(キースラーガー)で、黄銅鉱、黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱などの集合体からなる、層準規制型の鉱床である。閉山までに別子とほぼ同量の3000万トンの鉱石を掘りだし、粗銅で40万トンを生産した。その他、鉛、亜鉛、金、銀、硫酸を生産し、小坂、足尾、別子などと並ぶ、主要な鉱山として知られた。鉱山のモーター部門が独立したのが日立製作所の起源でもある。
 鉱床のタイプは、別子とは異なり、鉛の産出が比較的多く、重晶石を伴うなど、変成前の鉱床のタイプは、大陸地殻物質が関与した熱水性の、黒鉱型鉱床であったと考えられる。

 日立変成岩の原岩は、東部ではタービダイトの構造を残す砂岩−泥岩互層と酸性凝灰岩、石灰岩を主とし、ラテライト質の風化岩などを交えるが、西部では玄武岩質火山岩・火山砕屑岩と、デイサイト質の火山岩・火山砕屑岩が多くなり、砕屑性堆積物がほとんど見られなくなる。また、南端の大みか噴出岩類は玄武岩−安山岩質火山岩・火山砕屑岩と、ほとんど陸源砕屑物を含まない石灰岩、圧砕花崗岩などからなり、さらに、超塩基性岩の貫入で仕切られた南西部の西堂平片麻岩類は、黒雲母片麻岩を主とする砂質−泥質変成岩を主体とするなど、地質ブロックごとに性格が異なっている。

 全体として、原岩の特徴を総合すると、大量に存在する火山岩のバイモーダルな化学組成や、黒鉱型類似の硫化鉄鉱床の存在(日立鉱床)、シルが多く見られること、やや大陸的な浅海成陸源砕屑物の存在と、その上位のタービダイトの存在など、大陸地殻のリフトに伴う、一連の火山噴出物および堆積物の積み重なりであると考えることができる。

 日本列島の地質は、5億年前以降の帯状の付加体構造が基本であるが、付加体の特徴を持たず、大陸地殻的な堆積物や、一連の古生物地理区を示す化石を含む古生代の地質が、南部北上、阿武隈、飛騨外縁帯、黒瀬川帯に転々と分布している。これらはバイモーダルな火山岩組成や、中国南部などとつながる古生物地理(貴州サンゴなど)から、付加体構造とは別の、おそらく揚子地塊に関連した堆積物であり、それが古い日本列島の一部を構成しているものと解釈されている。そのなかでも、日立地域は、もっともまとまった火山岩起源の変成岩が分布するところであり、日立鉱床や、ラテライト質岩(クロリトイド岩)の存在、南部北上帯と共通する化石の産出など、これらの地域の古生代後半のテクトニクスを議論する上で、鍵となる存在であると考えられる。

 環境問題を考える上でも、日立鉱山の煙害とその解決の歴史は興味深い。日立鉱床の鉱石は硫黄分が多く、精錬の際に有害な二酸化硫黄が多く発生する。鉱山の拡張と出鉱量の増大にともない、山林や田畑、人畜に大きな被害を与え、補償金の増大とともに離村、棄村が検討されるなど、社会問題化した。この煙害解決のために、住民と会社が努力し、日立鉱山は山地上16ヶ所の観測所のネットワークをつくって煙の行方の観測と排出量のコントロールを行う一方、日本初の継続的な高層気象観測を行い、地表付近の逆転層を突き抜ける高い煙突を建設することで、煙害の低減を図った。大正4年に完成した、大雄院の156mの大煙突により、煙害問題は劇的に改善され、さらに戦後の硫酸製造装置の設置、自溶炉の建設により完全な解決を見た。また、鉱山・製錬所周辺の植生回復のため、早くから積極的な植林が実施された。戦後の高度経済成長期に問題になった公害問題が、大正年間にすでに合理的な解決への努力がなされ、一定の成功をおさめたことは、もっと知られてよいことではないだろうか。

*参考書

 茨城県地学のガイド コロナ社
 茨城の自然をたずねて 築地書館 (この2冊は定番です。)

 新田次郎「ある町の高い煙突」(文春文庫112-15)

*地図:5万「日立」、2.5万「日立」「町屋」「常陸太田」

*服装:

 動きやすいもの。足まわりは、できれば濡れても大丈夫な靴がよい。日陰で寒い場所があるので、防寒は重要。

交通手段:

 方法1(18切符使用を前提とするもの).
  上野6:46→8:52水戸9:05→9:37日立

   方法2(普通乗車券を使うが、特急を途中で降りて安く済ませる方法).
  上野7:30−(フレッシュひたち5号)→8:47水戸9:05→9:37日立

 方法3(上野発が一番遅い方法).
  上野8:00−(スーパーひたち7号)→9:40日立

 東京都区内→日立の乗車券 片道2520円(学割2010円)
 上野→日立特急料金 指定席2490円、自由席1780円
 上野→水戸・勝田の特急料金 指定席2080円、自由席1370円

現地での移動予定

  9:50 日立駅始発、日立電鉄バス「東河内」(ひがしごうど)行き乗車
 10:16 「日鉱記念館」バス停下車
  〜
 15:34 「大雄院事務所前」バス停発
 15:52 日立駅(終点)到着 (上野着19時)

帰りの交通手段

 方法1
  日立1606→1743土浦1745→1907上野

 方法2
  日立1606→1634勝田1644−(フレッシュひたち44号)→1804上野

 方法3
  日立1620−(フレッシュひたち44号)→1804上野


環境と資源

巡検案内

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