キーワード解説

2001.1.6 萩谷 宏

 

 

*変成岩関係

 

変成岩

 変成岩とは、堆積岩や火成岩が、変成作用によって、本来の組織や鉱物組成と異なる、変成作用の温度圧力条件で安定な鉱物組み合わせと、特有の組織を持つようになった岩石である。

 

変成作用

 変成作用は、接触変成作用と広域変成作用に大きく分けられる。

1)接触変成作用は、特に地殻の浅いところで、高温のマグマが上方に貫入することにより、その周囲の岩石が通常よりも高温の条件に長期間さらされ、高温で比較的低圧の鉱物組み合わせを持つようになる現象であり、ホルンフェルスが典型的な接触変成岩である。変成度が上昇すると片麻岩になる。通常、岩石の組織は方向性を持たないか、ごく弱い方向性を示すに過ぎない。

2)広域変成作用は、プレートの沈み込み、及びその特殊な例である大陸地殻どうしの衝突によって、浅いところにある岩石が急速に地下の深いところに持ち込まれ、大陸地殻に挟み込まれる現象であり、このようにしてできる広域変成岩は、鉱物の定向配列(片状組織)が顕著であり、各種の結晶片岩となる。変成度が上昇すると、片麻岩やグラニュライトとなり、粗粒化するため片状組織が不明瞭になる。

3)変成度には上限があり、いずれの場合もあまりに高温に達すると、水の多い条件下では部分融解を起こしてしまう。この場合、もはやマグマの固結した花崗岩とほとんど区別がつかなくなる。このような岩石はミグマタイトと呼ばれる。(日立ではないが、阿武隈山地中央部で見られる。)

4)変成作用は、変成度が上昇し新たな変成鉱物が出現する過程(累進変成作用)では、一般に脱水反応として進行する。

*それに対し、変質作用はより低温で安定な含水鉱物形成のプロセスを指すことが多い。

 

変成帯

 変成岩はある特定の範囲に分布する。接触変成岩は貫入岩体からある幅(通常数km以内)で存在し、貫入岩体に近いほど変成度が高い。一方、広域変成岩は幅数km〜数十km、延長数千kmに達する、細長い分布を示すことが多い。これは過去のプレート境界(沈み込み帯)、あるいは衝突した大陸地殻同士の境界を示していると考えられる。

 広域変成帯が露出するには、その上部にある岩石が削剥される必要があり、古い衝突型造山帯ほど広範囲に変成岩が露出する傾向がある。ヒマラヤには変成岩の露出がないが、アパラチア山脈には広く分布する。変成度はその帯状の分布の中軸部が高くなり、両側に向かって低下する傾向がある。

 

変成相

 変成岩は、ある温度・圧力条件で安定な、数種類の鉱物の組み合わせをもっている。そこで、変成岩の鉱物の組み合わせをもとに、変成の程度を区分することができる。このような変成岩の変成の程度を表す用語として、変成相が用いられる。

 変成相は、一般的に泥質岩を用いる場合と、玄武岩質岩石を用いる場合がある。泥質岩の場合は、例えば白雲母・緑泥石を含む段階から、黒雲母を生じる段階、ザクロ石を生じる段階、珪線石を生じる段階という具合に、変成度が上昇する。玄武岩質岩石が変成を受けた場合は、緑色片岩(緑泥石、緑廉石、アクチノ閃石)、緑廉石角閃岩、角閃岩、グラニュライトのような順で変成度が上昇していると考えられる。

 これらの変成相は、野外での観察と実験室での高圧実験から1960年頃までに決定された。

 

変成相系列

 一連の変成帯の中では、変成度の低いところから高いところに向かって、帯状に変成度の異なるゾーンが配列することになる。この変成度の上昇のパターンは、温度・圧力条件の上昇パターンが低圧型の場合、高圧型の場合など、それぞれの変成帯によって特徴があり、したがって出現する変成相の組み合わせが変成作用のタイプを示すことになる。

 たとえば、低圧での変成作用では、緑色片岩相から角閃岩相に移り変わるが、やや高圧条件では、両者の中間に緑廉石角閃岩相が出現する。阿武隈山地では、御斎所−竹貫変成岩では緑廉石角閃岩相を欠くのに対して、日立変成岩では緑廉石角閃岩が広く分布し、より高圧の条件で形成されたと考えられている。

 

藍晶石・紅柱石・珪線石

 変成岩には、変成温度や圧力の指標となる、特徴的な鉱物が含まれている場合がある。泥質変成岩は地表の風化でできた粘土鉱物を多く含むため、アルミニウムに富む傾向があり、このため変成作用を受けた際に、アルミニウムの多い鉱物を生じやすい。Al2SiO5の化学組成を持ち、結晶構造の異なる3種類の鉱物:藍晶石・紅柱石・珪線石は、低温高圧では藍晶石が、低温低圧では紅柱石、高温では珪線石が安定である性質を利用して、変成作用のタイプを区分することができる。

 日立変成岩の南西部に分布する西堂平片麻岩類の中には、黒雲母片岩〜片麻岩中に藍晶石、紅柱石、珪線石の三種類を同時に含むものがあり、その変成履歴が議論されてきた。

 

 

*鉱床関係

 

熱水

 地下浅所に高温のマグマが存在する場合、地層や岩石中の水がその周囲で循環系を作り、熱を地表に運ぶことになる。温泉の水は、その地上への出口である。

高温の水は反応性が高く、さらにマグマ由来の火山ガス成分を供給されることで、さまざまな金属元素を溶かし込むことができるが、海底に噴出して0度に近い海水で冷やされ、あるいは途中の岩石と反応することで、いったん溶かし込んだ物質を急速に沈澱させることになる。そこで海底熱水鉱床や、鉱脈鉱床が形成されることになる。

 

黒鉱鉱床

 黒鉱は、日本の新第三紀の火山噴出物を主体とする地層(グリーンタフ)にともなう海底熱水性の鉱床に、特徴的に見られる鉱石である。黒いのは方鉛鉱、閃亜鉛鉱の割合が多いことによる。同様の鉱石で、黄鉱と呼ばれるものもあり、これは黄鉄鉱、黄銅鉱、磁硫鉄鉱を主とする。

 黒鉱鉱床は、他の海底熱水性堆積物の鉱床とことなり、大陸地殻由来の成分である、鉛やバリウムといった元素を含む鉱物(方鉛鉱、重晶石)を多く産出する。これは、熱水の循環域にデイサイト質火山岩や、花崗岩など大陸地殻物質があったためで、日本海の開裂や、沖縄トラフのように、大陸地殻が存在する場でのリフトを反映していると考えられる。

 日立鉱床の場合は、その主要部の鉱床(本山、藤見鉱床)は酸性火山岩起源の変成岩に接して出現し、鉱石の特徴も黒鉱に類似する。

 

キースラーガー

 変成帯中に出現する、層状の銅を含む硫化鉄鉱床を指す。海底熱水鉱床が地層中に閉じこめられたものが起源であり、変成作用により、地層の褶曲や変形にともなって再配置されたものと考えられる。

 過去の海洋底をつくっていた玄武岩質岩石にともなって出現し、四国の別子鉱床を代表として、佐々連鉱床などが有名。

 

精錬(製錬)

 多くの鉱床では、鉱石は硫化鉱物や酸化鉱物として産出する。これらの鉱石鉱物から必要な金属を取り出すために、製錬という作業が必要になる。コークスと一緒に炉に入れ、加熱することで、硫黄分を二酸化硫黄として排出し、残った金属酸化物をコークスの炭素で還元することにより、目的の金属を得る。銅の場合はこうして得られるのが粗銅と呼ばれるもので、さらに製品として出荷するためには、純度を上げるために電解槽で電気分解して精製する必要があり、こうして電気銅と呼ばれる製品を作る。この副産物として陽極泥と呼ばれる、銅よりもイオン化傾向の低い金属の沈澱が生じるが、これを精製することで金や銀も得られた。

 

二酸化硫黄による煙害問題

 二酸化硫黄は水に溶けると亜硫酸になることから、亜硫酸ガスとも呼ばれる、強い酸性を示す物質である。近年の酸性雨問題でも汚染物質の大きな割合を占めている。

 製錬の際に排出される煙には二酸化硫黄が含まれることから、この煙が作物や家畜に悪影響を与え、周辺の植生を破壊し、人間の健康にも害を与えて大きな問題となった。日立では直通電話でつながった観測所ネットワークの設置により、被害を予測し排煙量をコントロールするなどの対策を行っていたが、操業の拡大とともに対応が間に合わなくなり、大煙突の建設に踏み切り、煙害の軽減に成功した。

 戦後、排煙中の二酸化硫黄を利用する硫酸製造工場を建設し、煙害問題はほぼ解決した。

 

 

*テクトニクス

 

リフト

 地殻が割れて、中間に海嶺が出現し新しい海洋地殻が拡がる現象をリフトと呼ぶ。開裂の過程では正断層群が発達し、地殻は薄くなり、しばしば激しい火山活動がみられる。アフリカ大地溝帯や紅海がもっとも新しくわかりやすい例だが、日本海の形成のように、島弧形成に伴う背弧海盆の開裂も、スケールが小さいだけで本質的には同様の現象といえる。

 

バイモーダル火山活動

 現在のアフリカ大地溝帯やイエローストーン地域のように、大陸地殻が割れようとしている地域(リフト帯)では、マントル由来の玄武岩質マグマの他に、下部地殻の融解によるデイサイト質〜流紋岩質のマグマが活動することが多い。化学組成で見ると、両者の中間の安山岩質マグマを欠くことから、バイモーダル火山活動と呼ぶ。これは大陸地殻が存在するところでのリフトの特徴であり、中央海嶺などでは見られない。また、島弧の通常の火山活動は安山岩質マグマを主体とするユニモーダルな特徴があり、これとも異なる。