微量元素組成から見た、東北日本の変成堆積岩の原岩堆積場

萩谷 宏

予稿

1.微量元素組成を用いるメリット

2.分析手法

3.試料採取

4.分析結果

5.解釈と課題


1.微量元素組成を用いるメリット

a)変成岩の原岩を議論できる。

 ・岩石系列やtectonic settingによる濃度差が大きく出る。

 ・HFSEなどは、変質・変成の影響が出にくい。

 

b)粒度(砂・泥)によらず、ほぼ共通の特徴が現れる。

 ・後背地の表層地殻組成を平均化して見ることができる。

 ・原岩組織の保存が悪くても影響が出にくい。

 

c)地殻の組成的進化・変遷を議論しやすい。

 ・地球化学的サイクルのtracerとして用いることが可能。

 


2.分析手法

 XRF:東京大学理学部地質学教室PW-1480(Phillips社製)

主要元素:ガラスビード、40kV,60mA

微量元素:粉末試料加圧、80kV,30mA

 (Ba, Cr, Nb, Ni, Pb, Rb, Sr, Th, Y, Zr)

 測定値の信頼性については細心の注意を払い、試料の新鮮さや処理の際の混入の影響も評価している。数値には検量線の問題やラボ間誤差の可能性は否定しないが、同じ条件で測定しているので、強度比(=濃度比)を試料ごとに比べた場合には再現性がある。

3.試料採取

同一露頭から3〜5ヶ所のサンプリング(不均一性の検証)

 粒度変化、水平方向の組成変化、脈による影響などをみる

 


4.分析結果

 2つのグループを識別

1)Zr/Th=40100Nb/TiO2=15と、平均大陸地殻組成に対して顕著なNb, Thdepletionを示すグループ(日立、相馬ペルム系、御斎所の一部)

 →島弧の特徴

2)Zr/Th=1030Nb/TiO2=1015で、平均大陸地殻組成にやや近く、武蔵野(1992)の西南日本非変成中古生層のデータと重なるグループ(西堂平、竹貫、御斎所の一部、八茎、足尾帯)

 →より分化の進んだ、大陸的な特徴

    Zr/Th - Nb/TiO2判別図

 Nb/Yの値は、平均大陸地殻組成(Taylor & McLennan,1985)では1.44。全体として低いが、とりわけNbの枯渇したグループが見られる。これはふつう島弧火成活動を示唆する。

 Ti/Zrは、通常は大陸地殻での分化の進行の程度を表す指標として用いたり、大陸地殻物質のマグマへの混入を議論したりするのに使われる。玄武岩類ではその比は100程度なのに対して、花崗岩類では10〜20、あるいはそれ以下であることが多い。

Th/Zr=0.03程度までは、zirconに含まれるThの量で説明できる。(ZrSiO4)Zr:40%, Th:0.2-0.6%程度(SEM-EDS実測値)。それ以上は、Thoriteなどの寄与を考える必要がある。実際に、残存砕屑粒子として見いだされる。

 

 以下は、広域対比のためにHFSEを取り出して、N-MORBで存在度を規格化し、そのパターンを比較したもの。着目点は、Nbのへこみと、Thの存在度の高さ。

 日立変成岩内部での復元原岩層序と微量元素濃度比変化の様子。日立A:石炭系、黒雲母片岩、日立B:ペルム系、岩片質砂泥互層起源のスレート〜千枚岩。西堂平:黒雲母片岩〜片麻岩。時代未詳。
 A,Bは地域内で複雑に繰り返して出現する。微量元素の特徴は、いずれも判別図上で島弧的な特徴を示すが、Bの方が著しいNbのdepletionを示す。Aの砂岩には花崗岩質岩石の寄与が、化学組成・構成粒子の両方から読みとれる。西堂平は竹貫変成岩や非変成ジュラ系等のグループと一致し、”大陸的”なパターンを示す。
 日立Aは、浅海成の砂岩の可能性がある。組成のばらつきが大きい。Bは露頭・鏡下の観察からタービダイトであることがわかる。Bの方がより組成的な均一化がなされているようだ。

 さて、このような違いはどのような意味を持ってくるのか。単なるパズルのように、どことどこが同じか、というだけではなく、微量元素濃度比を使うともっと一般化した議論ができる。
 後背地・陸域の組成の変遷は、テクトニクスの変化を意味する。それは、何らかのストーリーにつながるのだろうか?。…乞うご期待。
 ちなみに、変成火山岩を誤って測ってしまった場合はどうなるか、HFSEパターンを検証してみる。日立の変成火山岩のデータでは、以下のようにフラットなパターンになるので、明瞭に区別できることがわかる。

 国内他地域の中・古生層との比較

 −西南日本の丹波帯、超丹波帯、舞鶴帯(武蔵野、1992)のデータをプロットして比較する。


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