436 微量元素からみた東北日本の変成堆積岩の原岩堆積場

      萩谷 宏

Trace element geochemistry on the metasediments in NE Japan

Hiroshi Hagiya

 堆積岩から過去の陸域の組成的特徴、堆積場やテクトニクスを読みとる試みは、特に砂岩のQFL図を用いた解析をはじめ、多数の研究がなされてきた。しかし、変成堆積岩についてその原岩堆積場を解析する場合には、原岩の組織の保存が悪いことなどから、通常の非変成岩に対して用いる手法は使えない。主要元素組成を用いることにも困難がある。

 後背地解析のツールとして、各種の微量元素濃度とその相対比を用いる方法は、Bhatia(1983), Taylor & McLennan(1985)などで提唱されてきた。これを用いて、テクトニックセッティングだけでなく、例えばArchean-Proterozoicの砕屑岩から大陸地殻形成の時間分布などが議論されている。

 HFSEと総称される、Th, Nb, Ti, Zrなどの元素は、変成作用・変質作用において、比較的動きにくいと考えられ、一方、非変成砕屑岩の場合、後背地の岩石種・岩石系列の違いを反映して、101-2倍の濃度差があることが知られている。また、砂質岩に限らず泥質岩にもこれらの元素は共通の組成的特徴が現れる。そのため変成砕屑岩の起源を探るには都合がよい。

 日本では、泥質岩の主要元素組成について、都城・原村(1962)などの研究があるが、微量元素組成についての検討は武蔵野(1992)などを除き、これまであまりなされていない。

 今回、東北日本、特に阿武隈帯とその周辺の変成堆積岩類と非変成砕屑岩について、東京大学理学部地質学教室のXRF(Phillips社製PW-1480)を使用して、主要10元素及び微量10元素の濃度を測定し、特にHFSEに着目して比較・検討した。その結果の一例を図に示す。堆積岩源であることは野外の産状と組織から判断し、露頭内での組成変化を検討するために、各露頭で数ヶ所ずつ試料採取を行い、粒度や水平方向の変化を含めて検討した。HFSEの濃度比については露頭内で顕著な差異は検出されなかった。

 分析の結果、対象とした非変成・変成砕屑性堆積岩には次のような特徴をもつグループが読みとれた。

1)Zr/Th=40100Nb/TiO2=15と、平均大陸地殻組成に対して顕著なNb, Thdepletionを示すグループ(日立、相馬ペルム系、御斎所の一部)

2)Zr/Th=1030Nb/TiO2=1015で、平均大陸地殻組成にやや近く、武蔵野(1992)の西南日本非変成中古生層のデータと重なるグループ(西堂平、竹貫、御斎所の一部、八溝、八茎、足尾帯)

 前者はBhatia & Crook(1986)の砂岩での分類では火山島弧に、後者は活動的縁辺域〜非活動的大陸縁の領域にプロットされるものが多い。

 微量元素組成に着目することで、泥質片岩などと一括されてきた変成堆積岩類の広域対比の可能性が広がり、ひとつの地質体内部でも性格の異なる構成要素識別が可能である。内部構造の複雑な変成岩地域の解析に有効な場合がある。


 *地質学会第104年大会講演要旨原稿から、一部訂正・改変

講演内容記録−暫定


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