2 地球の層構造

*地球の元素存在度
 マントルと核の分離は、惑星形成の比較的早い段階で起こったと考えられている。微惑星の衝突合体の際に発生する熱と、初期大気による温室効果のために、原始地球の表面は融解し、密度による分離が進行した。材料物質のなかで、密度の大きい金属鉄などが中心に集まり、比較的密度の小さい珪酸塩を主とする部分がその外側を取りまくような構造ができた。これが地球の核とマントルである。(→隕石の種類)

*地殻の形成
 地殻は、マントルの部分融解によって形成されたマグマが浮上し、表面付近に蓄積されることで形成されてきた。そのため、マントルの岩石よりもマグマに入りやすい元素が、選択的に集められ、地殻に濃集している。地球の地殻は海洋地殻と大陸地殻からなるが、海洋地殻はその大半が約2億年以内に更新されるのに対し、大陸地殻は40億年以上の古い部分を残し、繰り返し融解と分別を受けて、より濃集の進んだ組成を示している。

*地殻とマントルをつくる珪酸塩鉱物
 地球全体の化学組成を考えると、主要な成分としてOが多く、Mg、Si、Feがそれぞれほぼ等量あると推定される。(→1。元素存在度)
 そのうちFeは地球の体積の16%を占める核にかなりの量が入るので、マントルの主要成分は平均するとMgSiO3の組成となり、Mgの一部をFeで置き換えていると考えられる。
 太陽系の材料物質はほぼ均一であったとすると、地球型惑星のマントル及び地殻は、割合の多少の違いはあっても、地球と同様の珪酸塩鉱物がつくっていると考えてよい。月や火星、小惑星の表面を調べる場合にも、地球の珪酸塩鉱物と、岩石やマグマの知識が活用できる。

*月の形成に関するジャイアント・インパクト説
 アポロ計画で採取された月の岩石の研究から復元された、月の化学組成は、地球のマントルに非常によく似ていたが、月には金属鉄の核がほとんどないことがわかった。計算機シミュレーションで、微惑星集積の最終段階で、地球に火星サイズ(1/10)の大きく成長した微惑星が斜めに衝突すると、地球の一部がはぎ取られ、地球を回る軌道上に集積して月が形成される可能性が示された。これは月の化学組成を非常にうまく説明することなどから、月の起源についての有力な説となっている。

*地殻は宝の山
 地殻ではマグマによる濃集、地下の温泉水の循環による溶解や沈澱の過程で、特殊な化学組成の鉱物がつくられることがある。その特殊化=濃集過程が金属資源をつくり、あるいは宝石や非金属資源を生み出すもとでもある。地殻の表面では太陽のはたらき、水循環、生物活動、火山活動が起きる場所であり、そこではさまざまな鉱物がつくられ、地球史を通じて蓄積される。マントルにくらべて、地殻の鉱物のバリエーションは非常に大きく、他の天体に比べても豊富な鉱物資源に恵まれている。地殻は宝の山なのである。

*密度からわかる地底王国とムー大陸の無理
 地球は、核、マントル、地殻、海洋、大気の順に密度が小さいものが外側に位置する層構造を作っている。マグマが上昇し、噴火するのも、マグマの密度が周囲の岩石より小さいからであり、噴火の際には火山ガスが発泡し高温であることからさらに密度が低下し、噴煙や火砕流として上空や地表を流れることもある。地下でのごくわずかな密度差がマグマの上昇を引き起こしていることを考えると、例えば地下に巨大な空洞が存在するというのは、空気と岩石の密度差が大きく不可能だということがわかる。また、ムー大陸なるものも全くの想像の産物であるが、大陸地殻が比較的密度の小さい岩石からなることでマントルに浮いて、海面上に顔を出していることから、大陸と呼べるだけの大量の大陸地殻岩石を数万年程度の短期間で証拠無く消滅させることは不可能である。

 −「理科年表ジュニア」第二版、丸善(2003)所収原稿を改変。


地球という星       次のページへ進む

indexに戻る

 萩谷 宏 2003.3