NHKジュニアスペシャル 第6回「氷河期襲来」 補足
ver. 1.0


VTR1

【グリーンランド】

 グリーンランドは面積218万平方キロメートル、世界最大の島ですが、地質の上からは、カナダ(ラブラドル)やスコットランド、スカンジナビアと連続する構造を持っていて、南部は25億年よりも古い時代につくられた大陸地殻でできています。大西洋の開裂の進行と共に両側が分離して、約5000万年前にいまのかたちになりました。
 グリーンランドの氷に覆われた部分の面積は180万平方キロメートル、氷の体積は240万立方キロメートルに達します。グリーンランドは平均1キロメートル余りの厚みの氷が覆っている計算になります。この氷の重みのために、グリーンランドをつくる地殻は下方にたわんでいて、マントルの中に沈んでいます。グリーンランドの中央部のへこみは、このようにしてつくられています。
 もし、グリーンランドの氷が全部融けると、地殻は隆起してあらたなつり合い(アイソスタシー)を保とうとします。数万年かけて、平均で400m、氷の厚い中央部ではもっと大きな値で、地殻が隆起することが予想されます。スカンジナビア半島や北米大陸では、約2万年前をピークとする最終氷期に厚い氷に覆われていたため、氷が完全に消失した現在でも、ゆっくりとした隆起が進行しています。

【メンデンホール氷河】

 アラスカのジュノーの街のそばまで延びる、幅2km、延長25kmほどの氷河です。ジュノー氷原から流出する氷の流れは30本余りあって、そのひとつがメンデンホール氷河です。ジュノーの町に近いこともあり、多くの研究がなされています。
 氷河は氷が固体のまま、年間数m程度の速度で流動しています。非常にゆっくりと力を加えると、固体も流動するのです。これは、スケールも速度も違いますが、マントル対流でも同じようなことが起こっています。

【雪の断面】

 雪が年々降り積もるところでは、雪は地層と同じように層構造を持ちます。雪の降らない夏には、雪の表面が一部融けたり、そこに周囲から飛んできた風成塵がたまったり、さらにはバクテリアが繁殖することもあり、雪が少し汚れた様子を示します。そのため、1年ごとの雪の層が識別できるのです。

 雪は、降り積もる新しい雪の重みで、時間が経つにつれて少しずつつぶされ、周囲とつながって氷に変わっていきます。ここでは春先から夏にかけて、表面の氷の一部が融けてしみこみ、雪の隙間を埋めて凍るために、通常よりも速く20年程度で雪が氷に変わってしまいます。ちょうど、堆積物が堆積岩に変わっていくプロセス(圧密とセメント化)と原理的には同じです。

【氷床】

 雪がたまっていく場所では、広い地域にわたって、数千年〜数十万年分もの氷を蓄えている場所があります。これを氷床と呼びます。南極やグリーンランドの氷床はその中でも最大のものです。氷床をつくる氷は、年々降り積もる雪によって供給されます。一方、氷床の周囲からは、氷河となって氷床をつくる氷が流出していきます。この供給と流出のバランスが保たれている限り、氷床の大きさは変わることがありません。しかし、気候が寒冷化に向かうと、バランスが崩れ、氷床は拡大します。逆に気候が温暖化すると氷床は縮小します。ここ数十万年の間に、地球表面は氷床の拡大と縮小・消滅を繰り返してきました。

【氷河のできかた】

 雪が融けずに残って層をなすということは、その場所では雪がたまる一方で、どんどん氷の厚みが増すことになります。しかし、同じ場所に際限なく氷がたまることはできません。ある高さまで雪と氷が積み上がると、氷は自分の重みで低いところに向かってすべりはじめます。それが氷河のはじまりです。
 地球上で低いところは海水がたまって海になっていますから、多くの氷河は海に向かって流れていきます。そうして末端で崩れ、氷山となって海に流出し、最終的には海水の中に混じっていきます。グリーンランドや南極周辺の海には、こうしてつくられた氷山が多数浮かんでいます。
 山岳氷河の場合は、周囲の気候が暖かいために、海まで到達する前に融けてしまうものと考えることができます。

【雪から氷】

 雪から氷への変化は、岩石を調べるように薄い板をつくり、偏光板を通して観察するとよくわかります。氷をつくる結晶が深い部分の層ほど成長して、大きくなっています。雪の間に挟まれた空気は、氷の中の泡のつぶとして封入・保存されますが、より下にある氷ほど泡の大きさが小さくなります。ひとつには、圧力が大きくなるため、泡の空気も押しつぶされて体積が小さくなるのが原因です。氷河や氷山の氷を水に入れて溶かすと、高圧で封入されていた空気の泡がはじけて、ぱちぱちと音がするのはそのためです。

【ジュノー氷原】

 50×100kmほどの氷床で、アラスカにある5万平方キロメートルの氷の一部です。氷床としては、ごく規模の小さいものです。

【氷河湖】

 氷河が海に届かない場合は、氷河の氷が融けた水が末端にたまることがあります。また、氷床が覆っていた地域では、氷河によって削られた凹みと、モレーンによるせきとめの効果で、多くの湖がつくられています。これらを氷河湖と呼びます。

【モレーン】

 氷河は氷の流れですが、氷だけではなく、周囲や底面の岩石を削り、その土砂を運びます。運ばれた土砂は、氷河の先端あるいは側面に集められ、置き去られます。これをモレーン(氷堆石)と呼びます。
 モレーンをつくる土砂は、水による粒子の選別や摩耗を受けていないために、大きさがまちまちで、角張ったかたちをしているのが特徴です。地層の中に閉じこめられても、これらの特徴で氷河成堆積物は区別が付くので、氷河の存在を読みとることができます。

【氷河による侵食】

 氷河は固体の氷が流動し、その重みが加わるので、非常に激しく岩盤を削り、侵食します。削り取った岩石は氷の動きに運ばれ、氷河の下方や側方の岩石を削るはたらきを助けます。
 氷河は水と違って流速が遅く、その分、幅広く流れるので、側面が切り立ち、底が平坦なU字谷とよばれる谷をつくります。U字谷に海水が入るとフィヨルドという入り江になります。

【氷期、間氷期、氷河時代】

 学術用語としては、氷期、間氷期という言葉はあっても、氷河期という言葉はないので、それを使わないようにしました。ただし、氷期−間氷期のサイクルのまとまりとしての氷期は、区別が付かなくなるので、番組では氷河時代という言い方をしました。
 現在のところ、最古の氷河性堆積物と思われるものは27億年前のものがあります。また、北米では24-21億年前に大規模な大陸氷床が発達したことが知られています。(ヒューロニアン氷期)
 その後、主なものでは8億年前、6億年前、4億年前、2.5億年前と最近の約200万年間が氷河時代にあたります。古い時代の氷河記録は近年研究が進み、増加傾向にあります。

【マンモス】

 マンモスは絶滅した象の一種です。シベリアで冷凍になったマンモスが永久凍土から発見されたことで、食物や内臓の構造に至るまで、その特徴が非常によくわかっています。厚い毛皮を持ち、寒冷地に適応した姿を持っていました。石器時代の人類が食料にしていたことが、住居の遺跡や狩りの道具、マンモスの化石に残された狩猟痕などからわかっています。

VTR2

【擦痕】

 氷河は氷だけでなく、自分が削り取った岩石片を運んでいるので、底面や側面の岩盤にひっかき傷を残します。その傷の跡を調べることで、かつての氷河の移動方向を読みとることができます。

【五大湖】

 北アメリカ大陸の五大湖も、氷河地形の名残です。最終氷期には北アメリカ大陸の大半を氷が覆いました。最大のローレンタイド氷床は、グリーンランド氷床の6倍にあたる面積1100万平方キロメートル、最大の厚みは約5000mに達したと推定されています。
 この氷床によって大地が削られたことと、削り取った土砂がモレーンとして水の出口をふさいで堆積したことで、大きな湖ができました。それが五大湖のなりたちです。

【迷子石】

 迷子石は、その場所にはない種類の岩石のかたまりが、置き忘れたように岩盤の上に残っているもので、かつて氷河や氷床に覆われていた地域に特有のものです。岩石の種類や性質を調べて、「上流」側の地質と比べることで、どこからもたらされたのか推定できる場合があります。
 迷子石は、気候が温暖化し、氷河が後退していく過程で、氷河の上にあった大きな岩石が取り残され、置き去りになったものです。もし氷河が後退しなければ、先端まで運ばれてモレーンをつくっていたはずのものです。ですから、迷子石は氷河の最後の置きみやげと言えるかもしれません。
 氷床の後退の時期は場所によって異なりますが、縮小の完了はおよそ1万年前と考えられます。現在までの1万年あまり、迷子石はそこにじっとしているのです。

【ラブラドル高原】

 ラブラドル高原は平坦な地形を示しますが、そこには多数の擦痕が残っています。ラブラドル氷原を刻む深い谷は、最終氷期のあと、氷床が縮小して消滅する最終段階で、流出量が少なくなった氷や水が場所を選んで流れ、そこだけ削り込んでつくったものと考えられます。
 北アメリカのローレンタイド氷床は、第四紀に数回の拡大・縮小を繰り返していますが、その際に各地の岩盤にたびたび擦痕を残しました。氷の移動方向が異なっていた場合には、以前とは別の向きに擦痕がつくられます。これまでに、少なくとも3方向の氷の移動方向の違いが擦痕から識別されていて、それは繰り返した氷期のそれぞれでの、氷床の発達の仕方の違いを見ていると考えられています。

【地球の歳差運動】

 地球の自転軸は数万年周期で、コマの首振りのように、傾きの方向と角度を変えています。これを歳差運動といいますが、この結果、北極星の方向が変化したり、太陽に対する傾きの角度が変わります。地球の公転面に対する自転軸の傾きは21.5度〜24.5度の範囲で変動します。わずかな違いですが、氷期への移行のきっかけとしては重要な役割を果たしている可能性があります。現在の自転軸の傾きは23.4度です。この傾きが季節変化の原因となっています。
 なお、番組ではミランコビッチサイクルと呼ばれる、地球の自転と公転の変動が原因と考えられる気候変動のうち、歳差運動しか扱っていません。他にも公転軌道の変化など、いくつかの要素がありますが、難解すぎるのでここまでの説明にとどめています。

【アルベド】

 太陽の光は、地球の表面で吸収され、地表を暖めます。しかし、地表に吸収されず反射される太陽の光も多く、その反射の割合をアルベドといいます。地表が雪や氷で覆われている場合には、太陽光はほとんど地表に吸収されず、反射されて大気圏外に大半が出ていってしまいます。このような状態では、寒冷化が進行することになります。寒冷化が進行すると、雪や氷で覆われる面積が増加するので、より反射率が大きくなり、寒冷化が促進される、という、正のフィードバック効果があります。

【氷床形成に海水が果たす役割】

 海水は海流のかたちで、低緯度から高緯度への熱輸送の一部を担っています。また、海からは大気に水蒸気が供給されます。北大西洋地域には、メキシコ湾からの海流が流れていて、それが熱と水蒸気を運んでいます。
 ラブラドル地域では、この温暖な海水から供給される豊富な水蒸気が雪として降り積もることで、急速な氷床の拡大を可能にしたと考えられます。陸と海の温度差が大きいと、対流も激しくなり、結果としてより多くの水を氷として大陸の上に積み上げることになります。

【大陸移動と氷期】

 地球史の中で気候が寒冷化し、氷床が発達した時代が何回かありますが、それらは大陸が集合し超大陸をつくっていたり、極地方に大陸が存在していたときに起こっています。逆に、温暖化するときには、大陸の分裂が進行し、火山活動が発達していたり、大陸が分散して海流による熱輸送が非常にうまく機能していたと考えられる時代にあたっています。長期的に見ると気候変動と大陸移動は密接な関わりがあるのです。

【氷の中の空気を調べる】

 グリーンランド中央部や南極の氷床をボーリングして、氷の層から数十万年にわたる大気の化石を取り出し、分析する試みが各国の協力で続けられています。海底のボーリングコアのデータなども合わせ、過去数十万年の大気組成や同位体の変動と、気温との関係が明らかになりつつあります。

【地球全面凍結の可能性】

 最近、原生代後期に地球表面の全面凍結事件があったとする、雪玉仮説が提唱され、地質の証拠や数値シミュレーションなどから、この説を支持する研究者が増えています。

00/9/13 萩谷 宏


戻る  

indexに戻る