NHKジュニアスペシャル 第1回「水の惑星・奇跡の旅立ち」補足

ver.1.04 萩谷 宏


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 重要なことは、地球は微惑星の衝突・合体でつくられ、表面はそのエネルギー で高温になったということ。クレーターは、惑星表面に微惑星や小惑星の破片が落下したときに、 どういうことが起きるか、ということを探る手がかりなのです。

【クレーター】

 月の表面にはクレーターがたくさんあります。月クレーターの形成時期は様々ですが、 多くは38億年前より古いもので、その時代までに非常に多くの隕石衝突があったとみられています。
 地形的に低いところにあるクレーターは、その後の月の火山活動で噴出した玄武岩の溶岩に覆われてしまっています。 月の”海”と呼ばれる、暗く見える部分がそのような場所です。
 月面のクレーター画像は、地上から高倍率の望遠鏡で観察しているために、 大気の影響でゆらゆらして見えます。古いクレーターの上に、新しいクレーターができていたり、 重なっているのが観察できます。
 火星の表面にはクレーターの少ないところがあって、これがかつて火星の表面を水が覆っていたのではないか、 と考えるひとつの根拠になっています。
 水星の見かけは地球の月に似ています。サイズが小さく、 大気はほとんどありませんが、極地方には水があるのではないかという説もあります。

【クレーターと大気】

 クレーターがたくさん見られる天体は、大気が薄いことが特徴です。大気や 水がたっぷりあると、クレーターが雨や風、流水に削られていってしまうので す。画面で紹介する月や火星、水星は、そういう大気の薄い、ほとんどない天 体の例です。一方、地球や非常に濃い大気を持つ金星では、クレーターが少な いのです。金星の場合は、厚い雲にさえぎられて、地形が外からよく見えない こともありますが、金星のクレーターが紹介されていないのはそういうわけで す。

【クレーターとマグマ・オーシャン】

 クレーターは、隕石が落ちたときに、その衝撃でできます。 衝突の勢いで地面の岩石をはじき飛ばすだけではなく、 隕石の持っていた運動エネルギーが一瞬にして熱に変換されるために、 隕石自体と衝突した部分の地面が超高温になります。規模の大きい衝突では、 その熱で地表の岩石がどろどろに融けてしまう場合もあります。 頻繁に微惑星やできかけの惑星が落下していた、46億年前の地球表面には、 このようにして、地表をマグマの”海”が覆う状況ができていただろうと考えられています。

【クレーターの侵食】

 現在の地球には大気があり、水があって、地表にできたクレーターはどんどん侵食されてしまいます。 古いクレーターは輪郭がはっきりしなくなり、 ついには風雨に削られ尽くして地形ではわからなくなってしまいます。さらに、 地球の7割を占める海洋地域では、クレーターはできにくく、残りにくいという特性があります。
 カナダのマニコーガン・クレーターは、2億1500万年前に世界各地に同時に形成された、 5つのクレーターのひとつであると考えられています。これは非常に大きなクレーターなので、 古くてもかたちが残っているのです。

【隕石の大きさとクレーターの大きさ】

 これは、衝突の相対速度によってエネルギーが違いますので簡単ではありません。 しかし、地球軌道と反対向きに飛んでこなければ、 脱出速度とほぼ同じ値で計算していいのかもしれません。秒速10kmくらいです。
 大まかに言って、クレーターの直径の1/10から1/100くらいが 隕石の大きさだと思っていいでしょう。

【原始太陽系】

 太陽系は、銀河系の中心から2/3くらいのところにある、ごくごく普通の恒星 ・太陽と、その周りを回る惑星・小惑星・衛星・水星などからなっています。 惑星を持つのは太陽だけではなく、他の星にも惑星系があることが、 観測から確かめられるようになってきました。
 太陽系の材料は、水素・ヘリウムを主とする星間ガスでしたが、水素・ヘリウム以外にも、 重い恒星内部の核反応や、超新星爆発によってできた元素が混ざっていました。 例えば炭素、窒素、酸素、マグネシウム、珪素、鉄などは 恒星内部でつくられて比較的多い元素ですし、鉄より質量数が大きい元素は 超新星爆発のときに作られます。
 地球にも、超新星爆発の残骸の元素がたくさん含まれています。鉄よりも重い(質量数の大きい)元素、 例えば放射性元素のウランやトリウムなどはこれにあたります。

【微惑星】

 太陽系ができたとき、そのもとになった星間ガスは、大半が中心に集まって 太陽を作りましたが、一部は太陽の回りに円盤状に集まり、無数の微惑星をつくります。 その微惑星が衝突・合体を繰り返して、いまみるような太陽系の惑星や小惑星、 衛星といった、太陽を回る天体をつくったと考えられます。
 微惑星の大きさは、最初の段階ではおよそ直径10kmほどであったと計算されています。 その段階では、石というより、砂粒がゆるく集まったようなものであったと 考えて良いと思いますが、それが集合・衝突合体していく過程でだんだんと大きくなり、 成長していきます。そうして表面が融けて、金属鉄や岩石、ガスが分離し、 密度による成層構造ができていくのです。
 微惑星はほぼ均一な組成のものでしたが、惑星に成長していく段階で、 惑星の場所(深さ)による組成のちがいができていく、と考えていいと思います。

【地球の年齢】

 地球の形成は約46億年前と言われています。この年代は、主に隕石の情報を利用することで 求められたもので、45.5〜45.6億年前を起点に取るのが一般的です。それを四捨五入して、46 億年前と言われるようになりました。
 実際には、太陽系形成当時の情報を保持していると思われる隕石でも、形成年代には 前後数千万年の幅があります。ですから、数千万年以下の精度で厳密な地球の年齢を 求めるのは非常に無理があります。微惑星の集積による成長にも時間がかかりますから、 どの時点で地球が完成したと言えるのか、難しいところです。
 →地球の年齢の求め方

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 要点は、地球の材料に水が含まれていて、それが衝突の際に他のガス成分と共に放出され、 二酸化炭素と水蒸気を主とする濃い大気の層をつくったこと。そして、 地表が冷えると水蒸気は液体の水として地表にたまり、海をつくったということ。 海の存在こそが地球が他の惑星と大きく異なる点であり、 地球の様々な特徴はそこからつくられていったのです。

【隕石】

 隕石は、小惑星や惑星の破片です。主に小惑星のこわれた破片がその起源であると 考えられていますが、例外的に月や火星から来たと思われる隕石もあります。 それは、他の大きな隕石が月や火星の表面に衝突したときに、はじき飛ばされた地表の岩石が、 月や火星の引力が小さいために宇宙空間に飛び出して、 さらに地球の引力にとらえられて落下してきた、という、重なり合った偶然の産物です。
 番組で紹介しているのは、1969年にオーストラリアに落下したマーチソン隕石です。 この隕石は、炭素質コンドライトという種類の隕石で、太陽系や地球の起源を探るのに、 非常に重要な役割を果たしている隕石です。この隕石の特徴は、 非常に未分化な化学組成=太陽系存在度にきわめてよく一致する組成、をもち、 非常に大量の水(約16%)を含水鉱物のかたちで含むことです。
 これほど水の含有量の多い隕石は珍しいもので、そのために、番組で紹介した実験でも、 非常にはっきりと水が出てくる様子が見えるのです。また、有機物も検出されていて、 生命の起源につながる可能性が注目されています。

【隕石の中の水、微惑星の水】

 隕石に含まれている水は、含水鉱物といって、結晶構造の中に水酸基や水分子がとりこまれて、 鉱物の一部になっているのです。これを強く加熱すると、 含水鉱物の結晶構造が壊れ、別の鉱物になります。その過程で周囲に水が放出されます。
 別なかたちとして、水がそのまま氷のかたちで微惑星を構成していた可能性もあります。 特に太陽から遠い位置では、そのような微惑星が生まれた可能性が考えられています。 太陽に近づいた彗星は、ちりやガスの尾を引いて明るく輝いて見えますが、これは、 彗星の本体が汚れた雪だるまのような、氷やその他の揮発性成分に富む、 直径10kmほどの塊であるためです。いわば太陽系初期の微惑星の化石が、 彗星の本体なのかもしれません。

【イスアの地層】

 最古の海の地層は、グリーンランド南西部のイスア地方から南西に点々と分布するもので、 約38億年前のものです。
 これは現在では変成岩になってしまっていますが、本来は海の地層であった証拠は、 海水からの沈殿物である、酸化鉄とチャートの地層(縞状鉄鉱)や石灰岩の存在、 さらに、砂岩やレキ岩の組織を残した岩石があることでも裏付けられます。
 レキ岩や砂岩の存在は、当時すでに陸地があり、レキや砂を供給していたことを示しており、 重要です。これを調べることで、当時の陸地の性質がわかります。 イスア地方では、この地層の中に38.5億年前の砂粒が見つかっていて、 その時代にできた陸地があったことを教えてくれています。

 なお、「地球大紀行」の時点(1987)には、この地層は世界最古の岩石といっ ても良かったのですが、1989年に39.6億年の年代を示すカナダの岩石が確認さ れ、また、中国、南極などで38-39億年前の岩石が発見されたこともあり、最古 とは言えなくなっています。しかし、イスアの延長の、海岸付近に露出する地 層には38.8億年前より古いと見られるものもあり、時代のわかっている海の地 層としてはもっとも古いものといえます。
 イスアの「年代のわかっている中での最古の海の地層」は、その時代に海が存在し、 最近の研究では生命の痕跡と見られる同位体の特徴を持つ炭素が検出され、 それが光合成により生産された有機炭素の可能性がある、という、 非常に重要なものなのです。

 画面で出てくる最初のカットでは、黒っぽい縞がありますが、これは縞状鉄鉱です。 海水中で3価の鉄イオンが沈殿したことによってできたもので、 ようするに水溶液からの沈殿物なのです。ですから、これは海の証拠になります。
 また、レキ岩の存在は、「当時の地球に陸と海があったことを示している」 と説明しています。地球大紀行のときの「渚のあと」という説明はやめました。 イスアの地層に残されている海の記録が、浅かったり、波打ち際だった、 という積極的な証拠はあまりないのです。それよりも、陸地があって、 そこからレキが供給されていることが、大陸の起源に関係して重要です。 白いレキは地球初期の大陸の姿を、間接的に伝えてくれるものなのです。

【地球の海の起源】

 地球に最初の海ができたのは、おそらく40億年前より昔のことで、 その中でも46億年前に近い時期と考えられます。これは、地球の表面の冷え具合や、 隕石などの落下の割合によって決まります。それが不確定なのでいつなのかはわからない。 でも、38億年前には少なくとも安定した海ができていたことが、 地層の証拠からわかる。それがすごいことだというわけです。
 いったん海ができても、大きな微惑星や惑星の破片が落下すると、 地球の表面がまた大規模に融けてしまって、せっかくできた海が蒸発してしまって、 一からやり直し、ということもあるわけです。実は、最初の頃の海は、 できては蒸発し、また水がたまり、という繰り返しをしていたと考えられます。

【水の光分解】

 大気中の水蒸気は、太陽からの紫外線により水素と酸素に分解され、 水素は軽い気体なので宇宙空間に逃げていってしまいます。このように、 大気上層にある水蒸気はどんどん分解され、消費されてしまいます。 現在の金星の大気には水がほとんどありませんが、もともとは地球の数分の1の水はあったのに、 このような光分解のプロセスで失われたものと考えられています。
 地球の場合は海を作ったために、このような光分解による水分子の消費が押 さえられたと考えられます。また、光分解で生じた酸素が、現在の1000分の1 程度大気中に存在すると、その濃度ではオゾン層を作ることはできませんが、 短い波長の紫外線を吸収するようになり、光分解が押さえられます。

【雨が降ると地球は冷えるのか?】

 雨が降るということは、温室効果気体である水蒸気が大気から除去され、 減るということです。
 次に、表面の水が蒸発する際に、潜熱を奪います。そして上空で凝結する際に潜熱を放出し、 その一部が宇宙空間に赤外線として飛び出していきます。つまり、 水が水蒸気になり、また水になるという循環により、 熱を宇宙空間に逃がす役割を果たすことになります。

 もうひとつ、重要なことがあります。地表に安定して水が存在する=海ができると、 大気中の二酸化炭素がどんどん吸収されて、炭酸塩岩として沈殿し、 結果として大気から急速に二酸化炭素が除去されると考えられます。そのため、 当初数十気圧あった二酸化炭素分圧が、数気圧まで下がったと推定されます。 温室効果もそれだけ弱くなりますから、その点でも、海ができることは 地表を冷やす効果があると考えていいでしょう。

98/11/8 萩谷 宏


*参考文献


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