飽和水蒸気量は、なぜ高温ほど大きくなる?

 萩谷 宏


>気温の高い方が飽和水蒸気量が多いというのは、気温が高い方が、
>空気は、たくさん水の分子を含むことができるということですよね。
>なぜでしょう。

 水蒸気も大気の成分のひとつなのです。特別な存在ではない。液体窒素や液体酸素があるように、水だって数百度の高温の大気であれば、液体の水の状態はなくて全部水蒸気として大気に含まれてしまって、ややこしい「飽和水蒸気量」なんて事を考える必要もなくなるのでしょう。たぶん。

 さてさて、飽和水蒸気量というよりは、「飽和水蒸気圧」を考えた方がわかりやすいと思います。温度を上げると、液体の水と水蒸気との間の平衡、すなわち水から水蒸気になって分子が飛び出していく量と、水蒸気になって空気中を走り回っている分子が水に戻る量が、ある(水蒸気の)圧力でつりあうわけですが、そのつりあいが、高温側ではより圧力の高いところでつりあうわけです。で、摂氏100度でそれが1気圧になる。つまり、1気圧では100度で水が全部水蒸気になってしまう。これが普通の沸点ですよね。気圧を上げれば、100度以上で沸騰するわけですし、逆に気圧の低いところ、例えば富士山山頂では100度以下で沸騰してしまうわけですね。これは、飽和蒸気圧の考えの延長で理解できます。つまり、液体の水と気体の水のつりあいは、温度が高いほど気体側の圧力を大きくしないとつりあわなくなる・・・水分子が暴れて気体になりたがる・・・ということですから。

 だから、気温が高いと空気はたくさん水の分子を含むことができるというイメージではなく、水が気体になりたがるのだ、というイメージでとらえてはいかがでしょう。空気はいろんな成分の寄り合い所帯で水も高温だとその中に入りたがる、と。

 水蒸気で飽和した空気を作ろうとすると、僕なんて下宿に満艦飾で洗濯物を干しているのだけど、とにかく水浸しにしますよね。あるいは、雲の中とか霧とか、水滴がたくさん浮いている状態で実現できる。すなわち、飽和するためには液体の水が過剰にある状況を作らないと、なかなか飽和状態を作るのは難しい。そういう意味で、液体の水から蒸発する水蒸気分子と、気体の水蒸気が凝結して水に戻ることのつりあいが問題だというのは、イメージできるのではないかと思います。

 地球大気の組成というと教科書では水蒸気を除外した表を出しているようなので、ついつい忘れてしまいがちですが、水蒸気はれっきとした地球の大気の成分のひとつなのです。なぜ除外されるかというと、おそらく場所によって水蒸気の割合が大きく異なる(乾燥していたり、湿っていたり、温度によっても異なる)ので、数値化することに無理があるからだと思います。実際、計算しようと思うとけっこう面倒なのですが、大気中の水の総量の見積もりからは、大気中に平均で0.25%くらい含まれている計算になります。二酸化炭素より多くて、大気中の成分としては窒素、酸素、アルゴンに次いで4番目なのです。


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水と空気の話

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