プレートの変形 …内陸の活断層の意味するもの


 日本には内陸の活断層が多く存在します。兵庫県南部地震を引き起こした地震 断層とされる、野島断層などはその例です。

 このような内陸の活断層は、ほとんどの場合地殻の上部だけに発達し、マントル の深さまでは達していないと考えられます。

 その根拠のひとつは、こうした活断層沿いに起こる微小地震や、より大規模な 地震の震源が、厚みが30-35kmほどある大陸地殻のまん中付近、15-20km程度の深さに 集中することがあげられます。

 岩石破壊のエネルギーは、地下の圧力が高い…深い…ところほどエネルギーが 大きくなるわけですが、その破壊が地下15-20kmのところでまでおきていて、それより 深いところに震源が求められないということこそ、そこに明確な断層ができてい ない(破壊が起きていない)ことを示しています。

 岩石は、融点に近くなると大きなスケールで見た場合には軟らかくなり、非常 にゆっくりとした動きであれば流動するようになります。アセノスフェアの説明 がまさにそうです。プレート(リソスフェア)の下、おおよそ1100度に達する あたりから下をアセノスフェアと考えていいようです。プレートの運動は、この アセノスフェア(地震波の低速度層でもある)の存在があってはじめて説明さ れました。

 この温度状態ではかんらん岩は固体です。固体のままでも年間数cmというよう なゆっくりした動きでは流動できるということです。かんらん岩の融点(融けは じめの温度…部分融解するから)は深さ50-100kmでは1300度程度です。

 アセノスフェアでは通常地震が起きません。というのは、応力が加わった場合に、 流動(塑性)変形でそれを解消してしまうからです。リソスフェア(プレート)は 温度が低いので、流動できずに破壊が起こってしまう。それが地震であり、断層 をつくるメカニズムであるわけです。

 マントルのかんらん岩の場合は1100度というのが目安になるのですが、地 殻の場合は融点がより低い、はんれい岩や花崗岩、変成岩類などからできていま す。その融点(融けはじめの温度)は、水を含んでいますので700−800度 程度になります。当然、年間数cmのゆっくりした動きに対して流動できる温度が 低くなり、おおよそ500度以上の領域では、通常は岩石の破壊が起きません。 この領域が、深さ20km程度の位置に当たります。つまり、それより深い地殻では、 地震が起きないし明確な断層も形成されないと考えられます。

 このような、応力に対する変形様式の違いが起こる境界を、brittle-ductile transition zoneとよび、それがいわゆるコンラッド不連続面(上部地殻−下部地 殻境界)の本質であると考えられています。日本語で書くと難しいのですが、脆 性変形−塑性変形境界、といえばいいのでしょうか。

 僕は下部地殻を構成していた岩石を観察した経験がありますが、非常に流動的 な大規模な褶曲構造が見られたりしたことから、感覚的には納得できます。
 上部地殻のやや深いところの断層がどんなかたちになっているのかは、シュー ドタキライトやマイロナイト、ウルトラマイロナイトといった岩石が侵食で地表 に露出しているものを観察することで、ある程度想像することができます。

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 内陸の活断層が集中し、それに沿って地震が起きやすい領域を境界として、 プレートの内部をさらに細かく区分する、マイクロプレートという考え方があります。 例えば、近畿地方の活断層の分布と、そこに加わる力の方向(応力場)から、 中国山地と中部山地、中央構造線の南側(紀伊半島)の3つのブロックの 相対運動を考え、これらをマイクロプレートとして取り扱う、という考え方です。

 このマイクロプレートの区分の根拠になっているのは、上部地殻での地震の震 源分布、断層の分布(と応力場)ではないかと思います。しかし、先に述べたよ うにこれらの破壊は上部地殻だけの問題であって、マントルのかんらん岩領域を 含めた、真の意味でのプレートの動きであるとは考えられません。つまり、これ はプレート内での(地殻の)変形が不均一に進行しているのを見ているのに過ぎ ないのではないでしょうか。とすれば、これをマイクロプレートと呼ぶのには僕 は抵抗があります。構造地質学者がよく使う、ブロックという用語の方が本来の 意味からして適切ではないかと考えています。

 このような用語、用法が使われる背景には、地震の震源分布がプレート境界で あるという短絡的な発想があるように思います。たしかにプレートの境界では地 震が発生することが多いのですが、プレートは真の意味で剛体ではなく、日本の ような収束場ではプレートそのもの(または地殻)が変形することが普通なのだ、 またそれに伴って断層ができ、地震が起きるのだということを理解して欲しい気 がします。

 プレートの変形は日本に限りません。例えば、インドがユーラシアに衝突した ことによって、パキスタンのコヒスタン弧が回転したり、ヒマラヤ−中国東北部 に大規模な断層系が発達したりしています。


 2000.3.16 萩谷 宏 

  【理科の部屋】発言#54614 (萩谷 宏:RE^5:<質問>横ずれ断層はどこにできるの 00/03/15 00:46)を改変−改訂中

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