マグマ発生の場所としくみQ&A

 2004.12.25


 Oさんからの質問に答える形式で。許可を得てメールの部分転載。

>(2)火山のマグマの形成について:地震、断層、火山についていろいろ本を読みましたが、マグ >マがどうしてできるのかと言うことに絞ってお聞きしたいと思います。岩石は地上では >約1000℃で溶けますが、地下の深いところでは、圧力が高いので、融点が高くなり溶け >にくくなるので、マグマの発生は地下温度がより上昇するか、圧力がより低下すること >が必要である、と言う説は理解できますが。また。深さ100kmから220kmの間に、速度の >伝達の遅い低速度層があり、ここは岩石とはいえ、より柔らかく少しの温度と圧力が変 >化するとマグマができ易いという説もあります。具体的な話になるとよく分かりません >ので教えていただきたいと思います。火山は次の3箇所で見られますので、それぞれマ >グマの形成が異なっているように考えられています。  基本的に、地球は表面から冷えるわけで、熱力学の第0法則からして、 表面から離れた、中心に近いほど高温の状態になります。深いところの物 質が浅いところに上昇するということは、周囲よりも高温の領域が圧力の 低いところにできるわけで、マグマを生じやすくなります。  そのような上昇が起きる場所が地球上では限られている、ということが マグマの発生場所が限られる原因です。沈み込み帯は水のマントル物質へ の供給による融点低下が効くので事情が異なりますが、そこでも一種の上 昇流が働いているという考えは根強いです。  低速度層は、地下の温度分布とマントルの岩石の融点の圧力変化による 曲線が接近し、固体のままだが流動性が大きくなると考えられる領域です。 このあたりのマントルをちょっと浅いところに持ち上げると、簡単に、と はいいませんが、たいがいマグマが発生します。マグマの発生は、マント ルの岩石が全部融けるのではなく、部分溶融といって体積の10-30%が液体、 残りが固体の状態ができて、液体が密度差で分離・浮上してマグマとなる ものと考えられます。(岩石は純物質ではないので決まった融点はなく、 ある温度幅で融解が進行します。融け始めの温度を仮に融点として話をし ました。) >  (2−1)プレートの潜り込み個所: 海洋プレートが大陸のプレートの下に潜り >込む個所(日本もそうですが)では、沈み込んだプレートが深さ100kmぐらいに達する >とプレートの岩石から水が搾り出されて、プレート上部に接するマントルにマグマを生 >じさせ、そのマグマが地表に噴出し、火山を生じると言う説です。以前は摩擦熱により >マグマが出来るという説もありました。現在は摩擦熱の説よりも、水分供給説が正しい >と考えられているのでしょうか。  摩擦熱でマグマが発生するなら、そこでは流体が存在するのだから、岩 石の破壊現象としての地震は発生しなくなります。 > (2−2)ホットスポットでのマグマの発生: マントル内部の対流により、大規模 >な上昇流(スーパーホットプリューム)と下降流(スーパーコールドプリューム)が存 >在し、前者はさらに枝分かれし、ホットスポットとして存在している。このホットスポ >ットの場所は一定で、マグマが発生し、火山が生じ、さらにプレートの移動によりハワ >イのような火山列島ができたと言う説です。この場合のマグマはどこに、どのようにし >て出来たのでしょうか。マントルの上昇流そのものがマグマとして、地上に出てくるの >でしょうか。それとも、マントル上部の低速度層(アセノスフェア)が、上昇してきた >、より高温のマントルに触れてマグマが出来るのでしょうか。  マントルの上昇流そのものはゆっくりした流れで、そこからマグマが分 離して密度差で急速に浮上しないと、マグマとして地表に出てくるのは不 可能だと思います。一応、マグマ生成領域より上では、周囲よりマグマの 温度が高いので、継続的にマグマは冷やされ続けることになりますから。 というわけで、マントルの上昇流の上部から継続してマグマが浮き上がっ てくることになると思います。それは連続した流れではなく、マグマと岩 石の密度が接近する、地殻−マントル境界や、下部地殻−上部地殻境界で いったん滞留し、マグマだまりをつくります。  アセノスフェアと、マントル上昇流そのものを区別するのは意味があり ません。上昇流そのものがアセノスフェアの一部になっているわけですか ら、連続的なものと思っていただいていいと思います。  区別する必要があるとすれば、大陸が分裂するときのように、急にある 場所に地下からマントルの上昇流がやってくる場合だけでしょう。ふつう のホットスポットはずっと上昇流が継続しているので、一連の流れの中で マントルの温度構造ができている、ということだと思います。 > (2−3)海嶺でのマグマの発生: 以前は海嶺からマグマが常に噴出し、プレート >の移動(押し出す)の原因と言われてきたのですが、現在では、マントルの対流がプレ >ートの移動を生じさせ、ある場所で、プレートが引き離され、その隙間を埋める為の受 >動的な湧き出し口が海嶺であると言う説があり、最近では海嶺の下にはマントルの上昇 >流はないとも言われています。これらの説は本当でしょうか。もしそうであるならば、 >マグマはどこでどのように発生しているのでしょうか。隙間があくことにより、圧力が >低下し、低速度層(アセノスフェア)にマグマが発生するのでしょうか。それとも、マ >グマではなく、アセノスフェアそのものが湧き出ているのでしょうか。  アセノスフェアそのものが出てくるとすれば、かんらん岩、またはその 加水分解物である蛇紋岩が海底に露出することになります。しかし、ほと んどの海底は(堆積物を取り除けば)玄武岩で覆われていますので、そう ではなく、マグマが発生し、充分に供給されていることになります。  海嶺が開く要因は、受動的という説は有力で、おそらく海嶺のほとんど の領域で受動的に開いていると思います。能動的に「割れる」のは、大陸 分裂の時のように上昇流が突き当たる場所で、それを除くと、ほとんどが 引っ張られて割れている。しかし、そのことで継続的にマントルの上昇が 海嶺に沿って起こり、高温の地下深いところのマントル物質が浅いところ に持ち込まれ、マグマを生じている、ということだと思います。  受動的か、能動的か、ということは、マグマにとってはどちらでもいい ことです。結果として上昇し、その位置での融点(融け始めの温度)より も温度が上になれば、そこで融解が始まり、マグマを生じるということで しょう。 Q:

>(1)「沈みこみ帯でも、一種の上昇気流が働いていると言う考え方 >はねずよい。」とありますが、どのような現象なのでしょうか。 沈み込みのプレート >があると、下からのマントルは上昇しにくいのではないでしょうか。あるいは、斜めに >沈み込むことによって、マントルに対流が生じるのでしょうか。また、沈み込むマント >ルはどのくらいの深さで、マントルと一体になるのでしょうか。  観測事実として、現在の日本列島で噴出するマグマが、地下のどのよう な温度圧力でマントルの岩石と分離したのかを、実験的に調べてみると、 地下80-100kmくらいのところ(正確には忘れました)で1400度以上という、 深さの割に異常に高温な結果が出てくるのです。浅いところに高温の物質 があるということは、何らかの上昇流を考えないといけません。  いろいろ解釈はあるのですが、比較的多くの人が考えているのは、沈み 込むプレートに沿って、その上面の大陸側プレートのマントル物質が下方 に引きずり込まれ、それを補う形で上側に上昇流がやってくる、というモ デルです。  沈み込むマントルの上側にある、大陸地殻(日本列島など)を載せた部 分の、断面で見るとくさび状の領域をwedgeマントルと呼びますが、そのウ ェッジマントル内部の斜めの対流の話であって、2つのプレートの境界を 突き抜けるような上昇流があるわけではありません。  沈み込んだプレートの岩石に行方ですが、最近の地震学の進展(地震波 トモグラフィー)によって、かなり詳しくわかってきました。どうも、な かなか混ざらないというのが事実のようで、沈み込んだ先の上部−下部マ ントル境界に滞留し、その塊がある程度成長すると、下部マントル−外核 境界にゆっくり落下するらしい。それがいわゆるコールドプリュームで、 同時にわき上がる上昇流がホットプリュームとして、大陸分裂の引き金に なると考えられています。  このあたりの話は、地震波トモグラフィー、プリューム(プルーム)テ クトニクスあたりのキーワードで探してみてください。丁寧な説明がある と思います。 >(2)先生の回答の中に「マグマと岩石の密度が接近する、地殻ーマントル境界(モホ >ロビッチ不連続面)や、下部地殻(玄武岩質岩石)ー上部地殻境界(花崗岩質岩石)で >いったん滞留し、マグマだまりを作ります」とあります。密度が接近すると上昇しにく >くなるのは理解できますが、なぜ、それらの境界の密度が小さくなるのかがよく理解で >きません。  地殻とマントルの境界は、地震波速度、もっと言うと岩石の密度が不連 続なので識別されたわけですから、当然のことです。  地球は基本的には安定した成層構造をしていて、外側ほど密度が小さい。 マントル、下部地殻、上部地殻の順に密度が下がり、その境界は連続的で はなく段階的に下がる、つまり岩石の種類が異なるのだと考えられます。  上部マントルはかんらん岩で密度3.0-3.4くらい、下部地殻ははんれい岩 や各種変成岩で2.8-2.9くらい、上部地殻は主に花崗岩、変成岩、堆積岩、 火山岩類で2.6-2.7くらいと思ってください。  この成層構造には理由があり、それぞれの地殻やマントルのたどってき た歴史を反映しています。  誤解を恐れず非常に単純化して言えば、マントルが部分融解してできた マグマが上昇して表面近くにたまって冷え固まったのが下部地殻であり、 その下部地殻が新たなマグマの供給などで再融解したり、大陸同士の衝突 などで融解し、そうして浮き上がってきたマグマがひえてできたのが、上 部地殻ということが言えます。 >(3)マグマだまりに圧力が作用するとマグマが噴出するので、火山は地震の前兆とな >る場合があると言う説もあるようですが、そのように考えてもよろしいのでしょうか。  一概には言えないのですが、例えば近傍で起きた地震によって火山周辺 の地殻の応力が緩和され、火道が開きやすくなって噴火するとか、マグマ だまりでの発泡が進行して噴火につながる、といったことがあるのだと主 張する人がいます。現象からすると、たしかにそう理解してもおかしくな いような事例は過去にあります。  しかし、マグマだまりに圧力が作用すると言っても、最大主応力軸は常 に重力方向ですし、そんなに影響があるかどうか、火山は地震の前兆にな るという言い方は正しくないように思います。逆は火山性地震を含めてあ りえると思います。  地震を起こす応力を蓄える領域の大きさと、火山とをくらべると、火山 はほんの点でしかなく、応力場の変化の影響を受けることはあっても、火 山が広域的な応力場に影響を与えるとは思えません。応力の大きな変化は 地震の際に起きますから、噴火が前兆にはなり得ないような気がします。 以上は僕の考えであって、世の中の人々がどんなことを言っているのか、 よく調べた上で書いているわけではありません。

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