NHKジュニアスペシャルとの関わり…#25「超新星爆発」へのコメントから


*NHKジュニアスペシャルのねらい、シリーズ構成

 NHKジュニアスペシャルは、もともと、既存のソフトをどのように再利用 するか、という目的で計画された番組です。

 当初の番組案内でも、 *****  これまで「NHK特集」や「NHKスペシャル」として放送された番組のな かから、特にこどもが興味を持ち、かつ教育的にも価値のある内容の番組を選 りすぐり、こども向けにわかりやすく再編集と再構成を施し放送するものです。 *****  という説明をしています。

 実際のところ、45分あるいは60分の番組を、30分の枠に入れ、さらに 解説を加えるための時間をとると、VTR部分には全部で15分〜20分しか とれません。どうしても取捨選択が必要になりますし、普通の大人向けとして もそのままではわかりにくい内容がたくさんありますので、わかりやすく組み 直し、説明する工夫が必要になります。

 ですから、再構成するにあたって、各回ごとに、もとの番組の素材の中から、 どうしても必要な、こどもたちに伝えるべき、本当に面白い内容は何かを読み とらなくてはいけません。それをディレクター陣と議論し、シリーズ全体での バランスや順番を考えながら、大まかな構成を決めていきます。

 今回のシリーズは、「人体」シリーズの制作がほぼめどが立った2月頃、プ ロデューサー、ディレクター、そして出演の高柳さんと、かなり時間をかけて シリーズ構成を検討しました。その結果、もとのシリーズと順番をかなり入れ 替えて、

1)導入 −星の世界、星の一生、宇宙の距離の測定
2)惑星 −太陽系の惑星、惑星探査、系外惑星、生命の可能性
3)太陽 −変動が地球環境に及ぼす影響
4)ブラックホール −観測
5)超新星爆発 −太陽系の起源
6)超銀河団 −宇宙の大規模な構造と宇宙の起源
7)総集編 −人類の宇宙への挑戦、その意義

 という組み立てにしました。(番組タイトルはこれらとは異なります。)こ れは、先に放送した回の内容をふまえて、後の回ではややつっこんだ内容を扱 える、という計算もした上での構成です。

*「超新星爆発」の構成

 今回のタイトルは「超新星爆発」ですが、元番組(銀河宇宙オデッセイ#2 「遭遇」)で扱っていた内容は、次のようなものでした。

  (ドラマ部分は省きました。)

 これらを再構成する際に、どのように構成を考えたかというと;

 …ということを、担当PDの矢野さんと僕との間で相談し、合意しました。

 実際には、今回のシリーズは「銀河宇宙オデッセイ」だけから素材を取るの ではなく、昨年度の「デジタル宇宙図鑑」から、映像を再利用している部分が 多くなっています。また、この回はその他にも「生命」「地球大紀行」「ナノ スペース」などの番組からも素材を集めて使いました。単なる圧縮再構成では なく、かなり手間と時間をかけています。

 構成を固めるまでに、何度も構成案を矢野さんが書いて、僕と議論した上で 書き直してもらい、また他のディレクターの意見をもらったり、プロデューサ ー(制作統括)の注文を入れて矢野さんが書き直し、さらに出演の高柳さんに 目を通してもらい、収録の現場でもさらに直しました。一方で、平行して内容 に関する裏取りや、表現の工夫に悩みました。今回は高エネ研の友人から超新 星爆発のエネルギー計算に関わった研究者に数値の確認をとらせていただくな どして、VTRコメントの録音前に徹底的に表現を書きあらためました。
 各段階での原稿は書き込まれ、あちこち削られ、書き加えられて真っ黒にな っています。僕は記念にそれらをすべて(毎回ですが)保存しています。

*視聴者層

 番組を実際に誰が見ているか、ですが、視聴率調査の結果からは、第2、第 4土曜は4歳から12歳の幼児〜小学生帯で5〜7%、それから30代女性に 1〜3%程度の視聴率があります。どうも、お母さんとこどもさんで見ている というパターンが多いようです。番組に対する反響も、主婦層からのものが意 外と多く、元番組を見てもわからなかったことがよくわかる、という大人の方 の感想や意見をいただくことが多いのも特徴です。

 やはり、NHKスペシャルを下敷きにする以上、一気に”こどもにもわかり やすい”というレベルまで、話を噛み砕くのは難しいです。そういう意味では、 この番組はいわば「ミドルスペシャル」であって、ほんとうにこども向けにす るには、さらにこの番組で扱う題材の一部分だけを取り上げて、再構成 する必要があるだろう、ということをディレクターの方々と話し合っています。
 しかし、映像の威力というのか、小学校低学年や、3歳、4歳といった幼児 でも、食い入るように番組を見ている、という話をいろいろな方から伺います。 年齢的に理解が難しいはずなのですが。驚くと同時にある種の怖さを覚えます。

*番組の役割

 既存の番組の面白いところを活かそうと思うと、どうしても小中学校の教育 課程とは内容がずれてきます。それは番組の性格上、仕方のないところだと思 います。しかし、それはそれで利用価値があるはずだ、というのが僕の考えで す。
 教科書に書いてある内容をわかりやすく、というのは、こども向け番組のひ とつのあり方だとは思います。しかし、教科書に書いてある内容を越えて、見 せて欲しいものというのもあるのではないでしょうか。

 僕自身は、科学の大好きな少年だった時代に、図鑑を熱中して読んでいた記 憶があります。僕にとっては、図鑑や難しめの科学の本は、自然科学の世界を かいま見る窓として、非常に親しみのわくものでした。その場合、図鑑や本は やさしくマンガチックに描いてあるものよりも、”本物”を感じさせるものの 方が好きでした。
 この番組は、ある意味で大人向けでもある、ある種の図鑑ではないかと思っ ています。ただし、活字よりも内容を詰め込むことができない分、コメントや 演出を工夫し、スタジオ部分での解説を入れることで、図鑑よりもフレンドリ ーで、親切なものでありたいと思っています。

 科学に対するあこがれは、必ずしも懇切丁寧に説明することで生まれるので はなく、大人が見ても知的好奇心をくすぐられるような、面白い題材を提供す ることも大事なのではないかと思います。番組にはいろいろな役割があるにせ よ、そういう役割も重要だと思います。
 「本物はかならずわかりやすい」ということを強調しています。だから、何 よりもまずホンモノを紹介しよう、と主張してきました。もしわかりやすくな いとすると、それはホンモノではないのか、僕たちの理解が正しくないか、説 明の努力が不足しているのだと思います。もちろん、映像になった時点で生の 情報ではなく二次情報ではあるのですが、それでも生に近いかたちで感動を伝 えたり、興味を呼び覚ますことはできるはずだと思っています。

 理科教育は学校という場に限定されるものでしょうか。教科書がなくても理 科(自然科学)教育はできると思います。それは地域の少年団だったり、公民 館だったり、博物館等の施設を軸にした活動になるかもしれません。インター ネットも非常に有力なツールです。しかし、このような放送メディアにも大き な可能性があると思います。インターネットに比べて双方向性は劣りますが、 番組ならではの自由度もあります。あるいは、既存の番組ソフトを再加工した り、部分提供するというかたちも含め、これまで以上に理科教育に役立てるこ とができるはずです。
 むしろ、教科書の制約を離れることは、学ぶ楽しさの点でメリットが生じる 可能性さえあるかもしれません。例えば新課程で大量の学習内容が落とされま したが、地学的な内容に限って言えば、もし前に述べたような教科書−学校以 外の学びの体制が充実できるなら(そこに問題はありますが)、教科書で教え ない分、のびのびと教えることができるかもしれない。教科書がつまらないの は、ここで学んだことがなんなのだ、というところまできちんと示さず輪切り にしてしまうところにあるのではないか、と思っています。教育課程が「厳選」 に向かうなら、その制約を離れることを活かしたいという気がします。

 以上、僕の立場からコメントさせていただきました。2学期はついにNHK スペシャルの既存シリーズの再構成を離れて、番組の内容を目的に合わせて新 たに組み直す予定です。その際には現在よりも我々の裁量が大きくなる…とい うよりも、もう完全に新たな番組をつくる作業になります。その際に、これま でにいただいたご意見や指摘されたことを参考にさせていただきます。

*番組制作への参加を

 僕が責任を持てるのはこの番組だけですが、僕が関わる限り、番組制作への チャンネルは開いております。僕が納得できる意見であれば、誰の意見であっ ても、可能な限り、いくらでも、番組内容に反映させる用意があります。

 ジュニアスペシャルに限らず、番組制作者は筋が通った意見に対しては真摯 であって、視聴者の声を無駄にすることはないと僕は信じています。ですから、 ご意見をどんどん(NHK宛に)送っていただくことが、よい番組をつくるこ とにつながると思います。
 問題点の指摘はもちろんですが、よい番組をほめることもかなり大切です。 学校の生徒の場合と似て、正当に評価し、ほめることで伸びる部分もあるので、 それは是非お願いしたいことのひとつです。

 僕にとってこのようなやりがいのある仕事をするのは、おそらくこの先滅多 にないだろうと思いますので、よいものをつくりたいという気持ちが強いです。 どうか今後ともよろしくお願いします。

99/06/19 萩谷 宏(hiroshi.hagiya@nifty.ne.jp)
nifty fkyoikus mes5【理科の部屋】発言#48073から。


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