NHKジュニアスペシャル 第24回「ブラックホール」
VTR台本 PD:紀平
「NHKジュニアスペシャル・銀河宇宙オデッセイ」ダビング台本 1999.5.19Ver. ★「ブラックホール」(放送5月29日、6月5日) ┌──────────────────────────────────────────────────┐ │VTR1:ブラックホールはこうやってできる 3'00"・6'30" │ ├────────────────────┬─────────────────────────────┤ │・海に渦巻く渦潮 │Q 潮の流れが作りだす渦潮。ブラックホールはこの海にできる│ │ │ 渦潮の様な世界だと言われています。 │ │ │ 私たちの想像をこえたすさまじい力で、周囲の物質を次々に│ │ │ 飲み込んでしまいます。 │ │ │ では、そんなブラックホールはどうやってできるのでしょう。│ │・トラペジウム │Q 大宇宙に繰り広げられる星の生と死。その中にブラックホー│ │ │ ル誕生のなぞを解く鍵があります。 │ │・ガスの雲の衝突CG │Q 星ぼしの光が照らし出す巨大なガスと塵の雲。星はこうした│ │・ガスが中心に集まるCG │ 雲の中から生まれます。 │ │・星の誕生CG │Q ガスや塵の衝突によって、一際、密度の濃い部分が生じます。│ │・プレアデス │ さらにそこに、重力によってガスや塵が寄せ集められ、やが│ │・ベテルギウス │ て中から大小様々な星が誕生します。 │ │ │Q 若い星の群れプレアデス。 │ │ │Q 晩年を迎えた星、ベテルギウス。太陽の30倍の質量を持つ、│ │ │ こうした巨大な星が死を迎えるとき、中心にブラックホール│ │ │ ができると言われているのです。 │ │・膨れ上がる星CG │Q 太陽のおよそ30倍以上の質量を持つ星に死が近づくと、 │ │ │ (内部での核融合反応も最終段階に入り)、星全体が大きく膨れ│ │ │ あがります。 │ │・超新星爆発 │Q そして、「超新星爆発」と呼ばれる、すさまじい光を放つ死を│ │ │ 遂げるのです。 │ │・潰れる中性子CG │Q 一方、星の内部では、すさまじい核融合反応の末に、物質の│ │ │ 最小限の単位(粒)、「中性子」だけでできた塊が生まれます。│ │ │ そして、その塊は高い密度に凝縮されていきます。角砂糖1│ │ │ 個分の空間に、100万タンカー千隻分の重さを押し込めた│ │ │ 状態です。 │ │ │Q 限界まで押し込まれた中性子の塊は、自らのすさまじい重力│ │ │ によって潰れ、まるで、異次元空間に引きずり込まれるかの│ │ │ 様に永久に縮み続けます。これが、ブラックホールです。 │ │・ブラックホール想像映像CG │Q 星空の中を移動する黒い影。コンピューターが描き出すブラ│ │ │ ックホールの姿です。ブラックホールは、巨大な銀河までを│ │ │ ゆがめてしまいます。あまりにも強い重力が、光さえもまげ│ │ │ しまうのです。(このQ、萩谷さんに要取材) │ ├────────────────────┴─────────────────────────────┤ │VTR2:ブラックホールのX線観測 │ ├────────────────────┬─────────────────────────────┤ │・アフリカ │Q 1970年、アメリカの大学を中心としたグループがケニヤから│ │・衛星 │ X線観測衛星ウフルを打ち上げました。 │ │・打ち上げ │Q X線は地球の大気に吸収されてしまうため、人工衛星で観測│ │ │ する必要があったのです。 │ │・衛星CG │Q ウフルは4年にわたって数々の天体を継続的に観測しました。 │ │ │ そしてX線を出す、強いエネルギーを持った天体をいくつも│ │ │ とらえたのです。 │ │・白鳥座LS │Q 私たち、銀河系にある白鳥座の天体X1もそのひとつです。│ │・白鳥座のデータ │Q これは、白鳥座X1が出しているX線データです。 │ │・不規則に変化するデータ │Q 時間とともに強さが不規則に、そして激しく変化しています。│ │・望遠鏡で見た 白鳥座 │Q 望遠鏡で見た白鳥座です。白鳥の首のほぼ中央にX1があり│ │ │ ます。不規則なX線を出しているのは何か?世界の科学者が│ │ │ 競って観測を行いました。 │ │・青白い星 │Q その結果、そこには青白く輝く星が確認されました。 │ │ │Q この星の動きを精密に調べると、まるで何かの回りを回って│ │ │ 動いていたのです。この事実は、青い星のそばに強い重力を│ │ │ 持つ見えない天体があることを意味していました。ブラック│ │ │ ホールです。 │ │・ブラックホール、イメージCG │Q そして、そのブラックホール付近から、不規則なX線が放出│ │ │ されていたのです。X1誕生のシナリオはこうです。 │ │・青と赤の星回り会うCG │Q かつて青白い星のすぐ近くには、赤い巨大な星がありました。│ │ │ 太陽の30倍以上もある巨大な星です。ふたつの星はお互い│ │ │ の回りを回っていました。やがて赤い星は死の時を迎えます。│ │ │ (爆発) │ │・超新星爆発CG │Q 巨大な星は、超新星爆発をおこし、その後にブラックホール│ │ │ が残されたのです。 │ │・膨張を始める青白い星 │Q 続いて青白い星も晩年を迎え、膨張を始めました。そしてつ│ │ │ いに星の表面がブラックホールの引力圏に達しました。 │ │・吸い込まれるガスCG │Q ガスはブラックホールのすさまじい重力によって吸い込まれ│ │・降着円盤CG │ 周囲に降着円盤と呼ばれる渦を作ります。円盤付近では、ガ│ │ │ スが摩擦熱で、1千万度以上という高温になります。その強│ │ │ いエネルギーがX線を発していたのです。そして吸い込まれ│ │ │ るガスの量の違いが、X線の不規則な変化を生みだしたので│ │ │ す。(このQ萩谷さん要取材) │ │・天体分布図 │Q X線を出す天体の分布図です。 │ │・夜空LS │Q 青い星は超新星の残骸、黄色は様々な銀河の中心、赤は未だ│ │ │ に不明のものです。地球にX線が届く範囲の天体だけを見て│ │ │ も、まだこんなに多くのブラックホールの可能性が残されて│ │ │ いるのです。 │ │ │Q 宇宙の完全な闇。そこに吸い込まれるガスが悲鳴の様に放つ│ │ │ X線が、ブラックホールの存在を浮かび上がらせているので│ │ │ す。 │ ├────────────────────┴─────────────────────────────┤ │VTR3:銀河系中心部への挑戦 │ ├────────────────────┬─────────────────────────────┤ │<電波観測> │ │ │・天の川 │Q 天の川。私たちの銀河系の姿です。ブラックホールが潜むと│ │ │ いう銀河系の中心は、この射手座の方向にあります。 │ │・CG │Q ところが、銀河中心の方向にはガスや塵のかたまり、暗黒星│ │ │ 雲があって、直接その姿を見ることはできません。 │ │ │Q 地球と銀河中心の距離は2万8千光年。暗黒星雲を貫いて観│ │ │ 測する新たな手段が必要になります。それは電波です。 │ │・パラボラアンテナ │Q アメリカニューメキシコ州、大平原に立ち並ぶパラボラアン│ │ │ テナの群れは、大型電波干渉計VLAです。 │ │ │Q 巨大アンテナを27台組み合わせて銀河中心をねらいます。│ │・9機のアンテナ │Q VLAはY字型にそれぞれ9機づつアンテナを設置して観測│ │ │ を行います。 │ │ │Q 今、Yの字の一辺を600メートルにしてあります。これに│ │ │ よって直径が1キロを超す巨大なアンテナに匹敵する能力が│ │ │ 得られるのです。 │ │・銀河系中心 │Q VLAでみた私たちの銀河中心です。画面は200光年の範│ │ │ 囲をとらえています。銀河中心は画面右下のひと際明るい円│ │ │ 形の部分、全天で一番強い電波源です。 │ │ │Q 更に解像度をあげ、銀河中心を見るために、アンテナの配置│ │ │ を最大に広げます。 │ │・最大に広がったアンテナ │Q 1辺が21キロ、東京23区内がすっぽり入る大きさです。│ │ │ この時の解像力は35倍にあがりました。 │ │・銀河中心核の映像 │Q およそ10光年の範囲。銀河中心核の映像です。画面中央の│ │ │ 一際明るいところに向かって、3方向からガスが流れ込んで│ │ │ いるのがわかりました。 │ │ │Q VLAの画像データなどをもとに、現在わかっている銀河中│ │ │ 心の姿を立体的に描いてみます。 │ │・銀河中心像図 │Q 銀河中心を取り囲む暗黒星雲のリング。直径は1200光年│ │ │ です。その内側に激しい物質の流れがあります。 │ │ │Q 円筒の内側には丸いガスの塊があります。その中に銀河中心│ │ │ があるのです。 │ │・コントラストを変えると浮かび上がる │Q 銀河中心の回り、およそ10光年の範囲です。もうひとつの│ │ │ 暗黒星雲のリングから中心に向かって3本のガスの流れが見│ │ │ えます。 │ │ │Q この流れがいきつく先にブラックホールがあると考えられて│ │ │ いるのです。 │ ├────────────────────┼─────────────────────────────┤ │<大気圏外からの赤外線観測> │ │ │・空飛ぶ天文台カイパー │Q ナサ、アメリカ航空宇宙局が開発した空飛ぶ天文台、カイパーで│ │ │ す。カイパーは高性能の赤外線天文台を搭載しています。 │ │・赤外線システム │Q 赤外線は、電波同様に銀河中心部付近の暗黒星雲のガスや塵│ │ │ などを透かして望遠鏡に届きます。しかし、電波同様、大気│ │ │ 中の雲や水蒸気には吸収されやすい性質を持っています。 │ │ │Q そのため、大気の外から赤外線を観測するシステムは、ブラ│ │ │ ックホールの調査には非常に効果的なのです。 │ │・夜の観測 │Q 太陽からの赤外線の影響がなくなる夜、観測が始まります。│ │ │ 銀河中心では、雲や塵が猛烈な速さで回転していると言われ│ │ │ ています。 │ │ │Q 赤外線の観測で雲の回転速度がわかれば、中心部の質量(重│ │ │ 力の大きさ)もわかります。このデータがブラックホールの│ │ │ 存在を知る重要なてがかりになるのです。 │ │・望遠鏡の測定結果 │Q 望遠鏡はきめ細かく、雲の動きを測定しました。 │ │ │Q こうした観測が繰り返され、銀河中心核のガスの動きが明ら│ │・ガスの動き │ かになってきました。ガスは1秒間に200キロもの速さで│ │ │ 回転していたのです。 │ │ │Q これによって、銀河系の中心には、太陽の300万倍もの巨│ │ │ 大な質量の存在が明らかになりました。 │ │ │Q 激しいガスの流れは中心に向かって加速していきます。この│ │ │ 流れの先に、高速で回転するガスの円盤があるのです。 │ │・降着円盤 │Q 銀河中心のブラックホールが作り出す降着円盤です。 │ │ │Q ブラックホールにひき寄せられる膨大なガスの一部は、あふ│ │ │ れ出て宇宙に放出されています。 │ │・ブラックホール、イメージ │Q 地球から2万8千光年。激しい活動を続ける銀河中心に潜ん│ │ │ でいた謎は、様々な観測方法によって今、少しづつ解明され│ │ │ つつあるのです。 │ └────────────────────┴─────────────────────────────┘