S. H. Richardson, J. W. Harris & J. J. Gurney. (Nature 366. 256-258, 18 Nov. 1993)
(論文紹介と解説) ver. 1.33(1994.2.26) web
version(1997.4.4) 萩谷 宏
キンバーライト噴出に伴って産出するダイヤモンドのなかにはinclusionを含むものがあり、大陸下マントルからのタイムカプセルとなっている。inclusionの内容(clinopyroxeneの有無, garnetの性質)によって2種類が識別されており、peridotite的なもの(ol+ga,=peridotitic diamonds)とeclogite的なもの(cpx+ga =eclogitic diamonds)がある。南アフリカKaapvaal craton内部で白亜紀に噴出したキンバーライト中の捕獲岩には前者のタイプがあり、それは Archean以降安定したマントルがKaapvaal cratonの下に存在していたことを示している。一方eclogite的な包有物は原生代のepisodicなマントルでのイベントを反映している。(ol: olivine, cpx: clinopyroxene, ga: garnet )
ここでは原生代のPremier kimberlite中のダイヤモンドのharzburgitic(cpx-free)及びlherzolitic(cpx-bearing)の2種類の起源をもつinclusionの同位体データを議論する。harzburgiticなガーネットのinclusionと、counterpartであるキンバーライト中のmacrocrystsは、Archean(>3000Ma)の年代に相当するNd・Sr同位体組成をもち、metasomatized mantle sourceの特徴をもつ。lherzoliticなガーネット及びcpxのinclusionはpreferred Sm-Ndアイソクロン年代として1930Maを示すが、これは近接するBushveld Complexの活動年代よりも約1億年新しい年代である。これらのことはArcheanにおけるコマチアイト的な火成活動とharzburgiticなダイヤモンド形成との関連を示唆している。
最後のダイヤモンド形成イベントは約1150Maのeclogiticな包有物から推定され、この年代はちょうどキンバーライトの噴出の直前の値である。
Kaapvaal cratonの中央部にある。→図
Boyd & Gurney,1986
*(参考) Kaapvaal
cratonの地質学的事件表
1180±30Myrに貫入した岩体とされる。
1100Myrのgabbroic
sillに貫かれ、Bushveld
complexのnorite
phaseを貫く。
(Bushveld complex:世界最大の層状マフィック貫入岩体。分布する面積66000km2、岩体の厚みは7-9kmにもなる(Rustenburg
Layered suite)。貫入時期は2050Ma頃、引き続いてGranite(Felsite)の貫入があった。)
商業的には宝石として最大のダイヤモンドの産出地として知られる。
学問的な重要性
ここのダイヤモンド中の包有物(inclusion)の組成を調べると、世界中のダイヤモンド包有物の組成のばらつきに相当するだけの組成範囲をもっている。
包有物の鉱物は40%がeclogitic、60%がperidotiticな組み合わせである。
peridotiticなinclusion(ol, opx, ga) → bimodal (Gurney et al.,1985)
2種類に分類
・Mg-rich, cpx-free →harzburgiticなもの
・calcic,
cpx-bearing →lherzoliticなもの
これらはダイヤモンドそのものの炭素同位体組成も異なる。(Deines
et al.,1989)
Eclogiticなダイヤモンド → 1180Ma
ほぼ噴出年代に等しい誤差範囲で一致
ダイヤモンドの形成は噴出の1-10Myr前
・・・窒素のaggregation
stateからの制約(Richardson,
1986)
inclusionの形態
2mm径のダイヤモンド中に平均200μmの大きさ
steelcrackerで分離
ガーネット(ga)・単斜輝石(cpx) ・・・Nd, Sr isotopesが測定できるphase
分析にはある程度の量が必要 (single grainでは測れない・・・20-200pgのNd)
色とmajor
elementの組成(Ca,
Cr, Ti, Na)で分類し、そのグループごとに測定。
(本論文)
harzburgitic garnet
特徴 (lherzolitic garnetに比べ)
CaOが低く、Cr2O3が高い。色:bright purple
Ti:検出限界以下 ・・・HZGAR1
0.2-0.3TiO2(wt.%?)を示す3つのgarnet・・・HZGAR2
に分類
lherzolitic garnet
TiO2: 〜0.9%, Na2O: 〜0.2% 色:reddish tinge(薄い赤)・・・LZGAR1
LZGAR1と共存するcpx:エメラルドグリーン、high Ti, Al, Cr, Na
・・・LZCPX1
Ca-rich, pale-purple garnet・・・LZGAR2
これと共存するcpx ・・・LZCPX2
(low Ti, Al, Cr, Na; pale green)
さらに2つのグループを分類
low Ti, Na ・・・LZGAR3
high Ti, low Na ・・・LZGAR4
・・・・
HZGAR1, HZGAR2
Nd, Sr濃度が高い →Table2
residualな性質に合わない
1180MyrのBulk Earthの値と比較すると
Sm/Nd, 143Nd/144Nd low
87Sr/86Sr
high →この当時のマントルで形成されたとは考えられない
・・・白亜紀のKimberley, Finschのキンバーライト中のダイヤモンド包有物と
性質が一致。これらはRb-Sr/Sm-Nd model age →3.2-3.3Gyr
ただしアイソクロン年代やモデル年代を得るにはそれぞれの値とBulk
Earthの値が近すぎる。
これらに相当するmacrocrystの性質を見る(MGAR06, MGAR14)
この2つのガーネットはRbをほとんど含んでいない(Table 2参照)のに、
87Sr/86Sr=0.7334(MGAR06), 0.7798(MGAR14)
・・・白亜紀に噴出したFinsch, Kimberleyのmacrocrystの値より高い
→非常にenrichした環境に置かれていて、Rbから壊変した87Srが増加
しかもmacrocrystのSrの同位体交換が効果的におこっていた。
host
rockのRb/Sr比はおそらく白亜紀のものより高い
lherzoliticなgarnrt-cpxの組み合わせ
Sm-Ndの2点アイソクロン年代で1930±40Ma(LZGAR1-LZCPX1)を示す
他の測定値(LZGAR2,3,4)も分析誤差範囲でこのアイソクロン上にのる。
143Nd/144Ndの初生比はεNd=-3でやや微量元素にenrichした起源物質を示す。
87Sr/86Sr=0.7037-7058(Bulk Earth~7023)やや高め
LZGAR1,3,4 ...LZCPXよりも高めのSr初生値
集合体の中の僅かの起源の異なるgrainのmixingの影響があるのでは?
→アイソクロンの解釈にも注意が必要
(本論文)
komatiitic melt →harzburgitic, ~3200Myr, strongly enriched
basaltic melt →lherzolitic, 1930Myr, mildly enriched
kimberlite? →eclogitic,
~1150Myr, depleted
(追記事項)
キンバーライト・パイプの分布(図)
キンバーライト・パイプ中の捕獲岩
種類と性質のまとめ(青木(1978)、岩波・地球科学講座)
捕獲岩
ガーネット・レールゾライト
ガーネット・ハルツバージャイト
パイロクシナイト
エクロジャイト →造岩鉱物の組成にも反映
メガクリストの形成とは? どのような場でつくられるのか?
fluidまたはメルトの関与なしにはできない?
大陸の下のマントルにダイヤモンドが存在することの意味
graphite-diamond転移の条件(サブソリダス)
高圧・低温側にdiamondの安定領域 →図
その領域での地温勾配・熱流量がかなり低いことを示す。
Boyd & Gurney(1986)
Archeanのマントルの温度条件について、相反する制約条件
1)komatiite →無水で1atm 1400-1650℃以上の高温
2)diamond →3Gpa(Depth 100km) 1000℃以下の低温
これらがほぼ同じ時代に存在するとされる。
(解説)
komatiiteの意味するものは何か?→いろいろな考え
中央海嶺が komatiiteでできていた(de Wit et al., 1992; Takahashi, 1990; Nisbet, 1986;)
plumeで生産したもの(Campbell & Hill, 1988; Hess, 1989;)
沈み込み帯(Takahashi,
1993)
ダイヤモンドの年代値が古い(3.3-3.2Ga)とすると
・・・大陸下マントルは当時から現在まで低温な条件を保持してきた。(ちょっとでも高温のイベントを経験するとダイヤモンドは分解してしまう)
このことは最近の地震波トモグラフィーのデータと調和的
古い大陸の下には100km-400kmにわたって軽くて冷たくて地震波速度の速い領域がある。
→tectosphereの認識
Boyd & Gurney,1986
黒丸:diamondを含む キンバーライト・パイプ。
白丸:diamondを含まない 〃
上の図はdiamondの存在から推定した地下構造の模式図。記号は著名なdiamond鉱山の頭文字。
diamondの形成はどのようなイベントを反映するのか?
最近の考え(Ringwood
et al., 1993; etc.)
*inclusionのアイソクロン年代の意味
それぞれの鉱物が同位体交換が進む場(鉱物にとって開放系)にあって、もともと均一な娘元素の同位体比をもっているとするなら、ダイヤモンドに封入されて閉鎖系になってからの経過時間を示していることになる。つまり、ダイヤモンドの形成年代に相当する。
問題があるとすれば、
1)炭素に富むfluidが岩石中でダイヤモンドを形成したときに、周囲の鉱物をランダムに取り込んだとき、もしそれらがすでに同位体交換をしていないものであったなら、そこで見ているのはダイヤモンドの形成年代ではなく、岩石中の各鉱物がその同位体について閉鎖系になってからの経過時間を見ていることになる。それは造岩鉱物中のNd・Srの拡散速度の問題であるが。もしそのようなことがあれば、年代は最後のthermal eventが終了した後に温度が低下して拡散が充分起こらなくなってからの経過時間を示すことになる。(ダイヤモンドの形成時代よりも古い値になる)
ただし、macrocrystのRb濃度とSr同位体比などをみると、上部マントルの岩石中での拡散は充分速いことが期待される。(本文)
逆の場合として、ダイヤモンド内の拡散が速い場合には実際よりも若い年代が得られることも考えられる。(結晶構造から拡散はひどく遅いと思うが。)
2)1930Maの年代をBushveld岩体と関係付けて考えると、説明がつかないことがある。Bushveld岩体をつくった大量のマグマを生産した、広域にわたる加熱イベントがあったならば、3Gaに相当する年代を持つダイヤモンドが見られることはおかしい。なぜ高温条件に置かれると不安定なダイヤモンドがそのまま生き残ったのだろうか。Premierのkimberlite
pipeはまさにBushveld岩体の中央部を貫いているので、なおさら不自然である。マントル内の温度・組成の立体的な不均一構造や流動を考慮に入れる必要があるのだろうか。
1100Maの年代の意味
Karoo dolerite(190Ma)
アフリカ南部一帯を広く覆うcontinental flood basalt(CFB), MgO=14-16%; picritic.
Sm-Nd isochron ...ca. 1100Maが得られた。
→Natal-Namaqualand beltの形成(1.0-1.4Ga)と関係? (Ellam & Cox, 1989)
あるいはeclogitic
diamondの形成イベントと関係?
diamondのK-Ar年代は重要(〜3Ga)
ダイヤモンドの形成年代のより直接的な情報
ただし、過剰アルゴンの影響が大きい(例:Ozima, et al,(1989): 〜6Ga)
40Ar-39Ar法の応用で段階加熱の各フラクションでアイソクロンを引いて、約3Gaの年代を得た例がある。
もし同じ場所でできた複数のダイヤモンドがあって、それが識別できれば、40Ar/36Arの初生比がいずれも同じであると仮定できるので、カリウムの含有量に応じたアルゴン同位体比の違いからアイソクロンが引けるだろうと予想されるが。
炭素同位体
ダイヤモンドの炭素同位体は、ダイヤモンドの炭素の起源を探る上で重要
軽い同位体比(13Cの割合が低い)を示すものあり・・・堆積物の有機炭素起源?
窒素同位体と組み合わせ(Boyd,
et al.1992)
エクロジャイト
沈み込んだ海洋地殻起源のものか?
最近、超高圧変成帯のエクロジャイトにダイヤモンドの発見あり
ダイヤモンドの軟エックス線像→coated grainの発見
核は自形、clearなのに、外側に包有物の多い層がとりまいているものがある
・・・少なくとも2段階の成長、それぞれ置かれた条件(場)が異なる?
いったいどこか?
ダイヤモンド中のmajorite componentに富むgarnetの発見
・・・上部マントルの底に近い条件でできたものがあるらしい。
Richardson, S. H., Gurney, J. J., Erlank, A. J. & Harris J. W.(1984): Origin of diamonds in old enriched mantle. Nature, 310. 198-202
Boyd, S. R., Pillinger, C. T., Milledge,
H. J., Seal, M. J.(1992): C and N isotopic composition and the
infrared absorption spectra of coated diamonds: evidence for the
regional uniformity of CO2-H2O rich fluids in lithospheric mantle.
EPSL, 108. 139-150.