大陸地殻の量的変遷


 大陸地殻の形成時期について、表層部分については、同位体地質学の応用で モデル年代を求めることができます。

 例えばRb-Sr系でしたら、平均的な地殻組成を表していると思われる堆積物 (例えば頁岩)の、Rb、Srそれぞれの濃度と、(現在の)Sr同位体比から、マ ントル進化線から外れて地殻独自の進化線(Rbが濃縮している分だけSr同位体 比の上昇が速い)にのった時期が逆算で読みとれます。これをモデル年代とい います。

 実際には多少の地域性はあるので、あちこちでやってみる必要があります。 これらを総合してだいたいの地殻の平均年齢が求められます。実際にはSm-Nd系 で議論することが多いのですが、とにかくその値は15〜20億年の間におさまる ことが多いようです。

 つまり、今見ている地殻は平均してそのくらいの年齢を持っていると考えて いいようです。ただしこれは表面だけの問題ですし、もう一つは、モデル依存 の部分があって、沈み込みに伴って壊され、内部に運び込まれる地殻物質がど の程度あったのか、それがわからないと、ある時代にどれだけの大陸地殻があ ったのかはわかりません。

 でも、各時代の堆積物を見ることで、当時の地殻表層をある程度読みとるこ とができます。モデル年代と堆積年代との差を見ることで、後背地ができたば かりの地殻に覆われていたか、それともすでにある古い地殻が露出していたか、 ということが読みとれます。そのようなことを総合して、現在のコンセンサス としては、原生代前半までにかなりの量(現在の70-90%)の大陸地殻はできて いただろう、ということになっています。

 もちろん、わからない部分がたくさんあります。ひとつ問題点を指摘するなら、 現在まで残っている過去の地質記録の偏りがあります。約27億年前よりも古い地質は、 ほとんどが火山岩や堆積物に火山島弧の特徴を示すといわれています。 少なくとも、安定大陸内部やその周辺で形成されたと考えられるものは非常に少ないのです。 砕屑性堆積物を地殻物質として、そのモデル年代を求めることで、大陸成長を議論した研究があります (e.g. McLennan & Taylor, 1985)が、火山島弧のモデル年代は若く出てしまうので、 もしそれ以前に確固とした大陸があったとしても、地質の記録にはその存在が反映されない危険があります。 つまり、地質の記録が残されたテクトニックな場をきちんと検討しないと、 我々の認識が偏ったものになってしまう危険があります。

 大規模な縞状鉄鉱層が27億年より前に見られない(注:縞状鉄鉱そのものは約39億年前から存在)ことも、 大陸内部や周縁部の堆積物がそれ以前にはほとんど残っていないことと関係あるかもしれません。 それが生物の酸素放出型光合成の開始時期の認識に、非常に大きな影響を与えているかもしれないのです。

 →大陸地殻とは


 1998.12.24/2000.6.22(改訂) 萩谷 宏

石からわかること

地球史

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