大陸地殻とはどういうものか?

    ・・・本来は「ムー大陸」批判で書いた文章です。


1)大陸は何でできているか(質の問題)

 大陸は海洋地域と地殻の性質が異なります。大陸地殻は平均の厚さが約35km程度、 上部は平均して花崗岩〜花崗閃緑岩質岩石、下部地殻は推定によって若干差がありますが、 閃緑岩質〜はんれい岩質岩石(及び変成岩)を主体とするものと考えられます。
 これに対し海洋地殻は、はんれい岩質岩石を主体として、厚みは5km程度です。

 これらの岩石の種類の違いは、密度の差となってあらわれます。 大陸地殻上部は2.7g/cm3程度、海洋地殻で2.9g/cm3程度、 そして大陸地域と海洋地域の下のマントルを構成するかんらん岩には若干の違いがありますが、 密度に関しては大きな差はなく、およそ3.3g/cm3程度です。

 地球は密度による成層構造をしています。地殻・上部マントル・下部マントル・ 外核・内核と、地球内部に向かって構成物質の密度が大きくなります。周囲より 密度の小さい物質が内部にあれば、浮力を生じ、上昇します。(例えばそれがマグマが上昇してくる理由です。)
 大陸地殻は固体地球の層構造のなかでは最も密度が小さいので、最上層に浮い ているわけです。

 重要なことは、大陸地殻は比較的軽い岩石でできた、厚い(35km)存在であるということです。 それがマントルの上に浮いた構造をとっている。だから、海面上に安定して顔を出していられるわけです。

 逆に言えば、密度の低い物質でできた大陸地殻がなければ、広い面積にわたって海面上に陸地を作ることはできません。

2)大陸はどのくらいの岩石でできているか(量の問題)

 大陸と島との区別は、かなり人為的なものですが、最大の島であるグリーンランドが218万平方キロメートル、 最小の大陸であるオーストラリアが700万平方キロメートルあまりの面積を持っています。そうすると、 大陸地殻の平均の厚み35kmをかけて、最小の大陸でも2億立方キロメートル以上の大陸地殻岩石があって、 マントルの上に浮いていることになります。

 もう一度まとめると、108km3(1億立方キロメートル)のオーダー、 あるいはそれを超える量の岩石の塊が大陸であるということです。

3)大陸はどのくらいの速度で消滅できるか

 大陸を消滅させることが可能かどうか、大陸地殻を破壊する2つのプロセス、 陸上での風化・侵食と、プレートの沈み込みに伴うtectonic erosion の2つのプロセスから検討します。

 現在は、ヒマラヤ・アルプスなどの衝突型造山帯があることで、地球史的には高い侵食率を示している時代なのですが、 侵食による砕屑物生産率は全地球表面でおよそ2×1013kg/year とされています。 (いくつかの見積もりがありますが、1.3-6.5×1013kg/yearで、桁は同じです。)
 密度を低めに見積もって2g/cm3とすると、これは10km3/year(10立方キロメートル/年)に相当します。

 1億立方キロメートル以上の大陸を侵食で消滅させるためには、少なくとも107年(1000万年)以上のオーダーの時間をかける必要があり、 実際には、それよりもはるかに時間がかかることがわかります。

 また、その場合、削られた砕屑物の行方も問題です。海洋面積は約3億6000万 平方キロメートルですから、均等に割り振っても(非現実的ですが)平均で300m の厚みの堆積物ができなくてはいけません。

 沈み込みにともなって地球内部に持ち込むことのできる量ですが、プレートの移動/沈み込みの速度が速いところで10cm/yearですので、 沈み込みの場である海溝の総延長を40000kmと仮定すると、1年あたり4km2のプレートが沈み込むことになります。 海溝の総延長は100000kmには達していなかったと記憶するので、実際には1年あたり数平方キロ、ということでしょうか。
 プレートと共に地球内部に持ち込める陸源砕屑物ですが、付加体を作らずに沈み込ませなくてはならず、10m〜100mのオーダーの厚みで考えるのが実際的です。 そうすると、せいぜい1km3/yearか、それよりもかなり少ない量になります。そうすると、大陸をひとつ消滅させるには、 やはり1億年以上のスケールの時間が必要だということになります。

 以上の議論が妥当である限り、たかだか1万年で”大陸”を痕跡なく消滅させるのは不可能です。

 *大陸地殻消費率と平均年齢についての補足

 *花崗岩の上昇・露出


 2000.7.27 萩谷 宏

石からわかること

地球史

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