大気組成の変遷


**大気の組成はどうやって決まったか**

大気の組成−現在の姿

 地球型惑星:CO2,N2,...(地球のN2,O2主体の大気は地球型惑星で特殊な存在)

木星型惑星:H2,He,CH4,NH3,...               

1)太陽系の形成(約46億年前)

超新星爆発→ガス放出→ガスの吹きだまり→重力収縮→原始太陽系形成

 周囲はH2,Heを主とするガスが覆っているだろう(=一次大気と呼ばれる)

 太陽は種族Iの恒星=リサイクル品。

 図表の太陽の水素分布の表→太陽の組成:水素は約73%,残りのほとんどHe。

 ビッグバン説による元素合成の計算よりも、わずかに水素が少ない。

 これは太陽が核融合で消費したことのほかに、もともと以前に存在した恒星が消費して水素の割合が減ったガスから太陽系ができたのだろう。(廃物利用?)

 リサイクル品の証拠:鉄より重い元素の存在、例えばウランや金や白金、バリウムなど・・・作るのにエネルギーがいるので通常の恒星の核反応ではできない=超新星爆発でできる

 昔の太陽は暗かった・・・核融合領域が太陽が水素を消費するに従って外側に移動→核融合反応をする領域(面積)の増加(4πr2)→放射エネルギーの増加→(現在の)より明るい太陽

 *(一次大気が地球でも重要と考えられたのはもう古い考え→後述)

 この段階のガスを保持しているのが木星型惑星だと思って良い。太陽からの距離と自身の大きい重力でガスを保持することができた。

 (*図表で木星型惑星の質量、密度を読ませる。)

2)惑星の集積・形成(約46億年前)

 固体粒子の析出−微惑星の形成 → 微惑星の衝突・合体成長/衝突による脱ガス(低温で蒸発する成分の放出)・・・・二次大気の形成、温室効果により原始惑星表面の保温効果が働く・・・・マグマ・オーシャンの形成(惑星表面が微惑星の集積・衝突の際の熱でどろどろに融ける)

3)地球表面のマグマ・オーシャンの時代 (45億年前頃)

 地球の表面を覆うマグマの海(マグマ・オーシャン)と原始大気の物質交換

 → 比較的酸化的な大気(CO2,N2,H2,CH4?,...)の形成。CO2分圧の占める割合大(数十気圧程度)

 ・・・・金星の大気組成が参考になる(この状態を今日まで維持?ただしH2Oの長期間の光分解により酸化的になり、硫酸の雲などができている)

     (CO2,N2,....数十気圧/温室効果による地表の高温→海がつくれない)

4)地球表面に液体の水(海)が安定して存在 (〜40億年前)

 微惑星・隕石(微惑星破片)の落下率低下・・・地表温度低下

 地表に液体の水(海)ができる → 大気中のCO2が水に溶けて石灰岩として

 海水の増加            沈殿

       ↑      (正のフィードバック)  ↓

       大気中のCO2濃度低下により、温室効果の減少

 *このサイクルが進行し、大気中の二酸化炭素を数気圧まで下げる。

  表面温度が下がりすぎると海洋表面が凍結するなどで、上記のサイクルには歯止めがかかるだろう。(=条件によって負のフィードバック)

 (正のフィードバックの例をいくつか紹介→これが進行してある条件まで進むと、そこで別な要素が与える効果が効いて、負のフィードバックがかかり、結果としてある幅で物理化学条件が安定する。このようなつりあい(=動的平衡)で地球の環境条件が決定されている。)

5)生命の誕生、光合成の開始 (〜38億年前)

       光合成

  6CO2 + 6H2O → C6H12O6 + 6O2  

               ブドウ糖   *ブドウ糖からいろいろな有機物ができる

            ←

           呼吸

 二酸化炭素の消費→有機物(生物体)と遊離酸素の生産。

 大気中の酸素はすぐには増えず、海水や地表の酸化に消費される。

 光合成の担い手:シアノバクテリア・・・ストロマトライトの形成

 35億年前の地層からシアノバクテリアの化石が見つかる

(石炭紀など、大量の植物遺体=化石燃料の形成期には、大気中の酸素も増加)

 *余談)人間は炭水化物などの分解消費で水を体内でも作っている。

6)縞状鉄鉱の形成 (主に38〜16億年前)

 海水中に岩石から溶脱してとけ込んでいる二価の鉄イオンが、酸素によって酸化されて三価の鉄イオンになる→溶解度が低いため水酸化鉄として沈殿。

    free O2

 Fe2+  →  Fe3+ / Fe3+ + 3OH- → Fe(OH)3

 海底に堆積した後、続成作用(圧力・温度上昇)で脱水反応

 2Fe(OH)3 → Fe2O3 + 3H2O

          赤鉄鉱

 このようにして大量の酸化鉄が海底に沈殿した。世界の大規模な鉄鉱床は、ほとんどがこのようにしてできた先カンブリア代の堆積性縞状鉄鉱床である。海水の酸化が完了し、地表も酸化されると、いよいよ大気中に酸素が蓄積していった。

注)かなり単純化した話です。実際は縞状鉄鉱は赤鉄鉱だけではなく、磁鉄鉱、黄鉄鉱などもありますし、縞々の白い部分はチャートですから、それも説明 しなくてはいけませんが、生徒から質問が出ない限り省略します。

7)酸素の蓄積、オゾン層の形成、生物の陸上進出 (約4億年前〜)

 光合成によって大気中に酸素が蓄積され、ある濃度に達するとオゾン(層)が形成されて、太陽からの紫外線の大半を遮断するようになる。

 → 生物の陸上進出を可能にする

 植物の上陸、森林の形成→大気中の酸素はさらに増加、動物の上陸、脊椎動物の進化・繁栄。 ・・・現在に至る。

 大気中の酸素濃度は一定ではない。約3億年前の石炭紀には、欧米の石炭のもとになった大森林が発達したが、この頃の酸素濃度は今より高かったと推定した研究もある。恐竜のいた1億年前頃の白亜紀も高かったらしい。

8)人類の活動の大気組成に与える影響 (現在)

 産業革命以降の化石燃料の消費、熱帯雨林の破壊など

 ・・大気中の二酸化炭素分圧の上昇、温室効果増大→地球温暖化、海面上昇

*大気の温室効果にはメタン、フロンなどの影響も無視できない。

 フロンガスによるオゾン層の破壊

  冷蔵庫やスプレーに使われるフロンガスが放出されると、大気上層でオゾンを分解する。フロンガス自身はなかなか分解・消費されない。

 →地表に到達する紫外線量の増加 特に高緯度地方で顕著(オゾン・ホール)

9)地球の進化の行く末 (未来)

 数億年〜数十億年後、地球磁場の消滅 → 太陽風(高速の荷電粒子)による大気のはぎ取り効果が進行する(現在はバン・アレン帯が太陽風に対するバリアの役割を果たしている) ・・・大気が減少していく 

 →現在の火星の姿(磁場がなく大気がはぎ取られてきわめて薄い)

 オーロラは太陽からの高速の荷電粒子が大気上層の分子に衝突することによる発光現象で、現在では高緯度地方でしか見えない。これは地球磁場の作るバリアに守られているためで、太陽(黒点)活動が活発なときには、バリアを破って比較的低緯度でもオーロラが見えることがある。(北海道でも観測されたはず。)


Rev. 1998.3.25 H.Hagiya

水と空気の話

読み物・資料集

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