日立変成岩の内部構造と全岩化学組成

      萩谷 宏(東大理)

Structure and bulk chemistry of Hitachi Metamorphic Rocks

Hiroshi Hagiya (University of Tokyo)

 日立変成岩は阿武隈産地南部に分布する、火山岩及び各種堆積岩を原岩とする変成岩である。原岩の堆積は主に石灰岩中の化石から古生代石炭紀(藤本,1924)からペルム紀(杉山,1973)と想定され、変成年代はK-Ar放射年代から白亜紀(植田他,1969)とされる。これらは緑色片岩相−緑廉石角閃岩相−角閃岩相の変成度をもつ、低圧中間群に属する変成岩とされている。(Tagiri,1972

 今回、野外調査と全岩組成の分析結果などから、日立変成岩内部の原岩層序を以下のように復元した。

(上位)

5)安山岩を主な起源とする砂岩・泥岩(タービダイト)−ペルム紀前期

4)酸性凝灰岩

3)層状石灰岩(風化岩を伴う)−石炭紀前期

2)石英質−石英長石質砂岩

1)マフィックな火山岩、火山砕屑岩(枕状溶岩を含む)、貫入岩及びフェルシックな火山岩、火山砕屑岩。

(下位)

 野外での観察結果と地質図上での検討から、本来はほとんど同じ上記の原岩層序を持つ一連の火山岩−堆積岩のパイルが、衝上断層と褶曲によって繰り返して出現しているものと考えられる。

 日立変成岩地域に広く出現する層状の結晶質石灰岩から、石炭紀前期のサンゴ化石Siphonodendron. sp.を見かけの層準の異なる数地点で確認した。これらの石灰岩は走向(北東−南西)方向に良く連続し、層厚は50-100m、黒色石灰岩を主体として上位に酸性凝灰岩が伴われ、ラテライト質の変成岩がしばしば伴われるなど、特徴が共通している。この石灰岩−酸性凝灰岩の組み合わせは、走向と直交方向に少なくとも7回出現し、東部ではその間に安山岩質岩石を起源とするタービダイトが挟まれて繰り返し出現する。

 タービダイトの堆積構造が残存して地層の上下判定が可能な露頭を調べることで、東半分の石灰岩−酸性凝灰岩で区切られた4枚のユニットのうち、ひとつだけが逆転していることがわかった。原岩の走向・傾斜、線構造は石灰岩に区切られたユニット内では小褶曲はあるものの、比較的安定した値を示す。また地質図上でも岩相分布の非対称性が顕著であり、日立変成岩の分布域の東部では、褶曲ではなく衝上断層による層序の繰り返しが重要であると思われる。露頭の観察からは石灰岩が断層で他の岩相と接していることが推定される。

産状と全岩組成から以下のような結果が得られた。

1)マフィックな火山岩は分布が偏り、南東端の大みか地域と北東の岩本付近にまとまった露出がある他は、主に中央部の諏訪地域から西に分布する。枕状構造やサブオフィティック組織の残存する溶岩や、シルまたは岩脈の形態をとる貫入岩、火山砕屑岩が識別できる。石灰岩や砂岩、タービダイトにはマフィックな貫入岩はみられない。フェルシックな火山岩類を密接に伴い、バイモーダルな火山活動を示唆する。

  マフィックな溶岩起源と推定できるものについて、化学組成から各種の判別ダイアグラム(Pearce and Cann,1979;Mullen,1983)を用いて検討すると、これらは島弧ソレアイトあるいはカルクアルカリ玄武岩、及びボニナイトの領域にプロットされる。
  フェルシックな火山岩は産状や斜長石の残存斑晶から砕屑性堆積岩と区別できる場合があるが、全岩組成からはSiO2, Al2O3, Ti/Zr, Nbなどの測定値に特徴がある。

2)石英質砂岩は特に分布域中央部の石灰岩に伴って見かけ下位に分布する。堆積構造は明瞭でなく、砕屑粒子にはウラン鉱物など深成岩起源のものが認められる。微量元素でもU,Th,Zrに比較的富み、Ti/Zr比の高いことなど、かこう岩質岩石を主体とする後背地を示唆する。

3)層状の石灰岩に伴われるラテライト質変成岩(クロリトイド岩)は、微量元素組成からはかこう岩質岩石起源の堆積岩との類似が認められる。

4)石灰岩に伴われる酸性凝灰岩については、岩石学的特徴はやや不明瞭だが1)のフェルシック火山岩に類似する。

5)タービダイトとして200m-300mの層厚をもち、東部に広く分布する。砂質部は長石−岩片を主体とする。組成的にはNbの濃度が相対的に低く、Thが低くTi/Zrが低いなど、火山島弧に分類されるような安山岩を主体とする後背地が想定される。


kenkyu.htm

index.htm