惑星探査と野外調査

自然科学科 萩谷 宏

 

*惑星探査とは

宇宙飛行士というと、大気圏外の微小重力空間でぷかぷか浮きながら、いろいろな科学実験を行う人、というイメージが一般的ではないでしょうか。しかし、現在の宇宙滞在は、将来の惑星探査の準備でもあるのです。月の探査に続き、各国が火星の有人探査を計画しており、日本も小惑星探査で世界をリードしています。未来の宇宙飛行士には、かつて月面で行ったように、地球外の地面に降り立ちそこで調査をすることが求められます。無人探査機による調査でも、惑星表面の物質を分析し、あるいは持ち帰ることが重要です。惑星探査には、惑星をつくる物質の知識と、実際の調査の経験が重要なのです。

 

*日本の小惑星探査

小惑星イトカワからサンプルを持ち帰った「はやぶさ」に続き、201412月に「はやぶさ2」が打ち上げられ、2018年の到達予定で、小惑星1999JU3を目指して飛行中です。「はやぶさ」は、世界で初めて小惑星の表面物質を持ち帰りましたが、それは地球にも広く存在する、かんらん石や輝石、斜長石といった鉱物の砂や、それらの鉱物でできた岩石の破片でした。

 

*アポロ計画の月面探査(〜1972

アメリカのアポロ計画での月面探査は、6回にわたって月面に宇宙飛行士を送りこみ、そこで岩石や砂の大量のサンプルを採取し、また様々な観測機器を設置して、科学的な調査を行いました。もともと大半がテストパイロット出身の宇宙飛行士たちは、月面探査に向かう前に、地球上で徹底的な野外調査の特訓を行い、充分な準備をした上で、月へと向かったのです。持ち帰ったサンプルは、アメリカはもちろん、各国の研究者が分担して分析し、地球や月だけでなく、太陽系の起源を探る上で貴重な情報がたくさん得られました。

 

*野外調査で何を学ぶか

アポロの宇宙飛行士の特訓は、岩石の識別や、地形の判別はもちろん、映像には映らない月表面の状況の記録や、何をサンプルとして持ち帰るべきなのか、その判断を現場で瞬時にできるように、非常に多くのことを学ぶものでした。アポロ17号では本物の地質学者であるシュミット飛行士が乗り組み、科学的に重要な発見を多数成し遂げました。アポロ計画の宇宙飛行士にとって、地球上での野外調査の訓練は、非常に重要な意味を持っていたのです。

 

*惑星・地球の特殊性

本学の自然科学科では、国内・海外でのフィールド調査を通じて、地球の40億年にわたる活動の痕跡を読み取り、そこで進化した生物の世界を学びます。地球の惑星としての特殊性は、表面に海が存在し、そこで生物が誕生し、表面の大気組成や温度の条件を生物がコントロールするようになったところにあります。また、プレート運動や火山活動が継続し、地球内部のエネルギーが常に地球の表面をつくりかえていることも重要です。生命の星・地球が、このように豊かな星になったのは、何が原因なのか、それを探るヒントが、他の惑星や小惑星に隠されています。惑星科学の進歩は、まず地球を知ることから始まります。そして、その知識は未来の惑星科学を支えていきます。

 

*未来の大学生/宇宙飛行士に期待すること

惑星について知るには、まず惑星・地球のさまざまな姿を知ること、それも本の知識ではなく、現場で学んでもらうことが大切です。地球のいろいろな場所で、どのように地表が変化しているか、どんなしくみで地球の大気や海洋や地殻がつくられ維持されているのか、それを学ぶことが、将来の宇宙飛行士に必要になることでしょう。ぜひ諸君には火星や小惑星を目指してほしいし、その過程で、地球についてもよく知ってほしいと思っています。