分子・生命・地球科学コース ゼミナール

2009.4.24

萩谷 宏

 

1)野外調査の常識

野外調査の目的

 生物学や地学の研究では、野外で実際の自然と向き合いながら、観察・試料の採取を行うことが、すべての活動の基礎となる。採取した試料を室内で分析し、得られたデータを数値化して処理する場合でも、試料を採取した状況の正確な記録なしには、科学的に意味のある結果を得ることはできない。

 

野外調査の準備

 野外調査の際には、大学への届け出、自治体への届け出(文化財・自然保護規則などがある場合)をはじめ、宿泊の手配、調査地域への往復交通手段の手配などが必要となる。

 また、調査に必要な地形図の読図能力や、調査用具の使用法に習熟することも求められる。

 

野外調査の安全

 安全な調査を行うために、まず自分自身の体調を整え、調査に必要な体力を維持しておくことが必要である。徹夜明けでの調査や、食事を長時間抜いた状態での調査では、判断力が鈍り、調査の能率を下げるだけでなく、事故につながりかねない。

 調査のための服装、装備についても、目的に応じたものを用意しておくことが必要である。長袖長ズボンは真夏でも必須。足首を保護する靴、軍手、両手を空けるためのリュック、帽子またはヘルメット、何かと役に立つタオルなどは、装備の基本である。

 調査地の条件によって、想定すべき危険の種類が異なる。野生動物の種類、交通量、現地での産業活動、季節による植生の変化、ダムの放水等による河川水量の変化、天候の急激な変化などの地域特性など、事前に把握しておく必要がある。

 本格的な調査を行う場合には、必ず数日間の現地下見を行うべきである。その上で調査計画を立てて、教員の指導を受けながら野外調査を行う。特に初心者の場合は、最初の数日間は教員と共に行動し、指導を受ける必要がある。

 野外調査の際には、行き先と帰着予定時間を明確にして、事故があった場合にすぐに対応してもらう(救助要請など)よう、手配しておくことが必要である。携帯電話は山奥では圏外になることが多く、特に実習などで集団行動の際には無線機の携帯が望ましい。

 調査の計画を立てる際には、日程に余裕を持つように設定し、雨天時など条件の悪いときに無理をしないこと。また、1日の作業時間も適切な範囲に設定する。帰路、夜道を歩くようなことにならないよう、作業の終了時刻は早めに設定する。また、夏季は雷雨の発生にも注意し、雷雲の成長を早期に発見し、避退するように心がけたい。

 地学の野外調査の安全について、詳しくは以下の文献を参照されたい。

 

狩野謙一(1992):野外地質調査の基礎.古今書院、148p2136円)

・日本地質学会フィールドジオロジー刊行委員会編「Field Geology 1 フィールドジオロジー入門」共立出版

 

記録の取り方

 試料はそこにあるだけでは学術上の意味を持たない。ラベルをつけて、あるいはノートに記録を取って、地球上のどの位置にどのような状態で存在していたのか、という情報があって、初めて科学的資料価値が生じる。ダーウィンのビーグル号航海記の時代から、アポロ計画での月面探査でも、基本は同じである。

 

記録は以下のように分類される。

a)採取位置の記録 −地形図上に記入。ノートにも記録。

b)産状の記録 −フィールドノートに記録、写真撮影。

c)標本に番号を付ける −標本にマジックで直接書き込む。あるいは、包装物に記載。

d)標本番号と標本の対比 −ノート、地形図に必ず記入。

 

 産状や採取位置を記録した、地形図やノートは野外調査の生命線である。これらを失うとそれまでの調査が意味を失ってしまうので、大事に扱い、管理すること。

 鉛筆書きは消えてしまう場合があるので、ボールペン、マジック、ペイントマーカー等を使用する。

 

 最近はデジタルスチルカメラの発達、ハンディGPSの利用により、電子情報として記録を管理する場合が増えているが、HDDのクラッシュなどで電子データは一瞬で消滅する。常にバックアップを取り、機材を過信せず、早めのデータ処理と保存を心がける。

 

 

2)地形図の読図の基礎

 

・地図、地形図の種類

・地図上の方位、磁針方位の場所による違い

・緯度・経度の情報

・縮尺、地図上の距離の測定

・等高線と地形の読み方、等高線間隔

・地形図から断面図をつくる

・地図記号の種類

・自分の位置を知る −目標物の設定と方位測定

・地形の特徴を知る −地図で見る様々な地形

・ルートの設定、沢沿いの道と尾根道

 

 

次回

各種機器類の操作法

歩測測量の練習

文献調査の方法