地学概論 2010期末試験問題 (萩谷出題) 採点基準

 

以下の問題の中から自由に4問を選んで解答しなさい。解答は、問題番号を明記し、各問3行程度を目安として解答用紙に記入すること。必要があれば裏面に記入しても構わない。問題用紙の提出は不要である。

 各問30点満点×4=120点満点。試験得点を1/2に圧縮して成績に反映。

 

1.地球の層構造形成とマグマはどのように関係しているのか、説明せよ。

 採点基準:密度成層構造8点、密度差によるマグマの浮上4点、地殻の形成4点、元素分別4点

      大気・海洋の形成8点 マグマ・オーシャンでの層構造形成15点。

 

 解答例:地球の形成期には、表層部の岩石が融けてマグマ・オーシャンが形成された。この際に地球の核・マントルの基本的な層構造が形成され、また原始大気が生まれた。現在も上部マントルから浮上するマグマは地殻を形成しながら液相濃集元素を表層部に蓄積しており、大気や海洋もマグマを通じてマントルから補充されている。

 

2.大陸移動の証拠にはどのようなものがあるか、説明せよ。

 採点基準:(各6点)古地磁気の記録(磁極移動曲線)、海岸線の相似、地質の一致、化石、氷河堆積物、古気候、海嶺の存在と海洋底拡大、GPSVLBIによる実測。

 

 解答例:大陸移動はウェゲナーらにより、太陽をはさんだ大陸の海岸線の相似、共通の(陸上の)化石の産出、地質・岩石の分布の連続性、現在の生物に近縁な種が分布すること、古気候、特に氷床の痕跡が大洋を越えて連続することなどから主張された。第二次大戦後、古地磁気の各大陸の極移動曲線の解析、あるいは海洋底拡大説やホットスポットの認識により大陸移動説は復活し、近年はVLBIGPSの観測で現在進行中の大陸移動が実測されるようになった。

 

3.以下の語句をすべて用いて、生物の進化と地球表層の変遷についての説明文を作成せよ。使用した語句には下線を引くこと。(分量が3行を超過しても構わない。)

  オゾン層 赤色砂岩 シダ植物 両生類 種子植物 恐竜 石灰岩 シアノバクテリア

  氷床 縞状鉄鉱 

 採点基準:各項目が正しい説明の時に3点。文脈の中での適切さを判断して加減。

 

 解答例:地球の原始大気に酸素はほとんど含まれていなかったが、光合成生物であるシアノバクテリアの出現以降、酸素が海中に放出され、海中の鉄イオンが酸化されて沈澱し縞状鉄鉱が大量に形成された。海水中の鉄イオンや硫化物イオンの酸化に消費されたため、なかなか酸素は大気には蓄積されなかったが、20数億年前から大気中の酸素は陸上で赤鉄鉱を生じる程度の濃度に達した。これ以降は陸上の砂漠成砂岩は赤色砂岩として、鉄が酸化された状態で含まれるものが現れるようになる。大気中の酸素が現在の1/101/100に達すると、成層圏にオゾン層が形成され、紫外線を遮るようになり、陸上への生物の進出が可能になった。古生代中期にはシダ植物の森林が形成され、さらにより乾燥した条件に適応した種子植物も現れて、大量の石炭が形成されるようになり、酸素濃度は増大した。森林と酸素の多い大気という条件がそろって、脊椎動物の一部が両生類として陸上生活に適応するようになった。海中では生物礁が形成され、石灰質の殻を持つ生物の遺骸により大量の石灰岩が形成されるようになった。中生代に入ると爬虫類の中から恐竜のグループが出現し、発展する。温暖な気候の中で、種子植物の中から花と果実を持つ被子植物が現れ、発展していった。中生代末の大量絶滅事件で恐竜は滅びたが、鳥類やほ乳類、一部の爬虫類は生き延び、新生代に発展していった。人類は被子植物の森に適応した祖先から進化し、やがて氷期−間氷期サイクルが始まると、大陸上に氷床が形成され、その拡大縮小に合わせて海水面も周期的に変動するようになる。現生人類は海面変動により現れた土地を通って、ユーラシアから南アメリカまで世界中に広がった。

 

4.放射壊変という現象は、地球の歴史の認識とどのように関係しているか。2つの面から説明せよ。

 採点基準:放射年代測定法の確立についての説明15点。壊変熱の発生により、地球が単純に冷えてきたわけではないことの説明15点。

 

 解答例:放射性同位体の壊変は、核種(同位体)ごとに半減期(壊変定数)が決まっていて、物理化学条件の影響を受けない。そこでこの性質を利用して、岩石や鉱物、化石や遺物が形成されてからの経過時間を、壊変の割合や、親同位体と娘同位体の存在比を用いて求めることができる。これを放射年代測定法といい、これにより地質時代に数値年代のものさしを入れることができるようになった。放射壊変は地球の熱源の一つとなっており、19世紀にケルビン卿が火の玉状態から現在の温度になるまでの冷却時間の計算で求めた、地球の年齢の計算(数千万年)が、様々な観測事実に合わないことを説明できるようになった。

 

5.恐竜はどのような生物であったのか、化石の証拠からわかっていることを解説せよ。

 採点基準:爬虫類であること6点。直立二足歩行が基本6点。中生代に生息/三畳紀に出現/白亜紀末に絶滅など6点。(初期の恐竜の)敏捷性3点。様々な種類3点。鳥への進化3点、羽毛の発見3点。時代による進化・変遷について6点。海・空の支配は0〜−3点。

 

 解答例:恐竜は中生代三畳紀に出現した、爬虫類の竜盤目と鳥盤目のグループを指す。初期の恐竜は他の爬虫類と異なり、脊椎を水平にした直立二足歩行が可能であり、このことが敏捷性や運動能力に優れ、他のグループを抑えて大繁栄した理由の一つと考えられる。ジュラ紀には巨大な竜脚類が進化し、白亜紀には羽毛を持つ恐竜も現れ、多様な種が現れた。小型肉食恐竜のあるものは鳥類への進化をたどったと考えられている。白亜紀後期には種数が減少し、他の爬虫類とともに衰退していたが、白亜紀末の小惑星衝突によりとどめを刺される形で恐竜は絶滅した。

 

6.地球表層での水循環のしくみと、その結果として生じる岩石の生成・変化について説明せよ。

 採点基準:太陽放射による三態変化、地表循環10点。流水による風化・浸食・運搬・堆積の諸作用10点。マグマの熱による熱水循環10点。石灰岩や蒸発岩の形成、氷河による浸食など5〜10点加点。

 

 解答例:地球表層では、太陽放射により海水が蒸発し、大気の流れによって運ばれ、上空で凝結し降雨や降雪により地上に戻っている。陸上への降水は、地表水や地下水となって岩石の風化や浸食を引き起こし、水や氷の流れとともに砕屑粒子を低いところに運ぶ。河川の河口部や海底に堆積した砕屑粒子は、地層の埋積による圧密やセメント化のプロセスにより、堆積岩へと変化していく。海水の蒸発により、内湾などの特殊な条件では海水の塩分濃度が上昇し、シアノバクテリアによりストロマトライトが形成されたり、蒸発岩が形成される。また温暖な海水が海流によって低緯度側から高緯度側に運ばれることにより、造礁珊瑚が生育し、通常より高い緯度で石灰岩が形成されることもある。地表付近に貫入したマグマを熱源とする熱水循環により、岩石の変質や鉱脈鉱床の形成がおきることもある。

 

7.東京の台地と低地の成り立ちの違いについて説明し、東京学芸大学の小金井キャンパスがどのような場所に位置しているのか、解説せよ。

 採点基準:段丘についての説明10点。高度分布、形成年代、海面変動、地下水・地盤の違い、河川のはたらきなど、各5点。小金井キャンパス=武蔵野台地の上、武蔵野面10点。国分寺崖線など5点。文章により加減。

 

 解答例:東京の台地は、約12万年前の下末吉海進と、その後の多摩川による段丘形成でつくられた。台地は主に上総層群からなる基盤岩に、海成層または河川成砂れき層がのり、その上に火山灰を主とする風成層である関東ローム層がのっている。一方、低地は氷期に深く河川が削り込んだ谷を、縄文海進時の海面上昇により砕屑物で埋め立てられており、間隙水が多く、地盤が軟弱である。

 

8.火山の噴火によって、プレート境界型の巨大地震が引き起こされることはないことを、誰もが理解できるように説明せよ。

 採点基準:火山噴火のしくみ15点、プレート境界型の巨大地震15点。説得力、完成度によって加減。

 

 解答例:火山は地殻の上部にマグマだまりを持ち、噴火の際に地殻のひずみなどで周囲に影響を及ぼすとしても、山体の周囲のごく限られた数km程度の領域に過ぎない。一方、プレート境界型の巨大地震が起きる際の震源域は、火山の存在する場所からは少なくとも100km以上遠く離れており、またM8クラスの地震で数百km四方の領域があり、火山の規模とは比べものにならない。

 

(以上)