石ころの地球科学(3)

石の話:花崗岩

(萩谷 宏:武蔵工業大学知識工学部)

 

花崗岩は、御影石(みかげいし)として石材によく使われる、ゴマ塩模様の白っぽい岩石です。主な構成鉱物は石英、カリ長石、斜長石、雲母類、角閃石類、磁鉄鉱などです。エジプトのピラミッドを始め、世界中の多くの場所で、古くから石材として花崗岩は利用されてきました。日本国内でも石材として採掘されて、国会議事堂をはじめ、さまざまな場所で利用されています。

 花崗岩は特徴的な景観を作ります。日本のような比較的雨の多い地域で花崗岩が風化すると、長石類や雲母が風化して、マサと呼ばれる砂が作られやすく、なだらかな起伏の地形を作ります。尾根や斜面では風化で残った岩石がごつごつした岩場を作ります。砂は河川により下流に運ばれ、海岸の砂になります。日本の瀬戸内海に見られる白砂青松の風景も、瀬戸内海地域に多い花崗岩がつくりだしたものです。大陸地域では、砂漠をつくる石英質の砂の起源は、ほとんどが花崗岩の風化したものです。

 花崗岩は太陽系のほかの惑星にない、地球を特徴づける岩石です。月の岩石はアポロ計画で詳しく調べられ、火星や金星にも探査機が到達して、表面の岩石の情報が得られていますが、いずれも玄武岩などの火山岩や、はんれい岩などの深成岩は見つかっていますが、いまだに花崗岩は一つも見つかっていません。花崗岩に含まれる雲母や角閃石といった鉱物は水を成分に含む鉱物ですが、花崗岩ができるためには、マグマを生成する場に水が大量にあることが重要であって、地球以外の天体には、水が表面にも内部にもほとんどないことが原因であると考えられます。地球は表面に水があって、プレートの沈み込みに伴って、地球内部に水が持ち込まれるチャンスがたくさんあります。それが地球特有の花崗岩が生まれる理由だと考えられています。

 地球の海は平均で4000m近い水深があります。陸の部分も含めて均等にならすと、地球は平均で2800mもの海水に覆われることになります。陸地はかなりの高さで海底から飛び出していることになります。陸と海では地殻の構造が違います。小さな島は別にして、地球の陸地は、平均の厚みが35kmほどの、分厚い岩石のかたまり=大陸地殻がその本体です。大陸地殻をつくる岩石の密度が他の岩石よりも小さいために、マントルの上に浮いて、地形的に高くなり、いわば水の上に顔を出しているので陸地でいられるのです。その密度の小さくなる原因の岩石が、花崗岩です。大陸地殻の上半分は、大半がこの花崗岩の仲間の岩石で占められていると考えられます。海洋地域の地殻は、太平洋でも大西洋でも、厚みは5kmから10km程度で、玄武岩やはんれい岩といった岩石でできています。密度は、マントルの岩石(かんらん岩)が1リットルに当たる10cmの直方体の体積で3.03.6kgなのに対して、海洋地殻の玄武岩やはんれい岩は2.82.9kg、大陸地殻の花崗岩は2.62.7kgと、明らかに軽くなっています。

 大陸の高いところ、ヒマラヤ山脈やチベット高原、アンデス山脈などは、60kmと、通常の倍近い厚みの大陸地殻が存在していることが地震波の観測でわかっています。このことからも、大陸地殻がマントルに浮いている構造であることがわかります。これより厚くなると、地殻の底が高温で融解してしまい、厚みを維持できないようです。

 大陸地殻がマントルに“浮いて”いる構造であることは、1万年ほど前まで続いていた氷期に2000m〜4000mもの分厚い氷がのっていた、北欧のスカンジナビア半島や、カナダのハドソン湾で、氷がなくなったために重しがとれて、いまも年間数mmずつ、隆起が続いていることからもわかります。飲み物に氷を浮かべておくと、氷をたくさん積み重ねた方が、水面から顔を出す氷の高さが増えます。それは大陸地殻がマントルに浮いている状態に似ていますが、上の氷をどかすと、押し込められていた下の氷が、ぬっと上昇してきます。それがハドソン湾やスカンジナビア半島の隆起です。

 数億年のスケールで見ると、海面の上昇や下降によって、大陸の面積は変化します。現在陸上に露出している地域も、海面が数十m上昇すると海水に覆われる面積はかなりあります。また、氷期には陸上に雪や氷(氷床)が蓄えられることによって、海面が最大130m低下し、ベーリング海峡や対馬海峡が陸続きになりました。地殻の構造で見ても、大陸棚というのは立派な大陸の一部です。

 もし、地球上に花崗岩が大量に作られることがなければ、陸地は存在せず、陸上の森林が形成されず、これほど酸素の多い大気は作られなかったかもしれません。また、脊椎動物が上陸して進化し、人類に至るようなこともなかったでしょう。花崗岩が地球に存在するということは、このような生物界の発展を、文字通り、縁の下の力持ちとして支えてきたということでもあるのです。

 

地球最古の岩石は、カナダ北西部に分布するアカスタ片麻岩という、花崗岩の仲間の岩石で、40億年を越える年代測定結果が出ています。より古い物質としては、西オーストラリアの33億年前の地層から、44億年前の年代を示す、ジルコンという鉱物の砂粒が発見されています。ジルコンは花崗岩には含まれますが、ほかの岩石ではほとんど含まれない鉱物です。そのような理由で、44億年前の当時、すでに地球上に花崗岩があったことが推定されています。

 花崗岩が陸地を支えていることを考えると、地球が陸と海のある惑星として進化し、その陸地の上に多様な生態系が形成され、そして人類が出現し繁栄するようになる運命は、地球ができたその直後から決まっていたのかと思うと、なんだか不思議な気がします。

 

写真1:35億年前の大陸をつくっていた花崗岩(アミツォク片麻岩)と、これを割って入り込んだ35億年前の玄武岩質マグマ(アメラリク岩脈群)。南西グリーンランド、アメラリク水道。

写真2:40億年前の花崗岩質岩石・アカスタ片麻岩

(標本の横幅3cm