石ころの地球科学(1)

 

石の話:石灰岩

 

石灰岩は、炭酸カルシウムを主体とする岩石ですが、セメント材料や石材など工業的には石灰石と呼ばれます。石灰石に塩酸を加えると二酸化炭素が出る、というように、石灰岩は炭素(二酸化炭素)を岩石のかたちで閉じこめています。

世界最古の海の地層は、グリーンランド南西部に露出する、3839億年前に堆積した地層が変成岩になったものですが、この中には石灰岩起源の変成岩が含まれています。このことは、3839億年前の地球の海に、大気の二酸化炭素がとけこみ、石灰岩として沈澱して、大気中の二酸化炭素がコントロールされていたことを示していると考えられます。

地球の歴史を通じて、地球の表面温度は、大気中の二酸化炭素などの温室効果気体濃度と、太陽光度で決まっていると考えられます。太陽光度は一定ではなく、初期には現在の7割程度の明るさで、次第に明るくなって現在の光度に達していると考えられています。そうすると、地球の表面が凍り付かずに、液体の水が海として表面を覆っているということは、現在よりも高い二酸化炭素濃度が必要です。かといってあまりたくさん二酸化炭素があると、現在の金星のように、高温になりすぎて海が存在できなくなってしまいます。

 地球の最初の海は、地球が誕生してまもなく生まれたものと考えられています。海ができると、初期大気に含まれていた100気圧分ともいわれる大量の二酸化炭素が、海水に溶けて石灰岩として大気から除去され、岩石として地殻やマントル内部に運び込まれました。その初期に形成されたであろう、大量の石灰岩は、いま見ることはできません。地下の熱と圧力で分解して火山活動により二酸化炭素が放出されたり、地表での風化で分解したりして、速い速度で入れ替わり、つくりかえられていったのだろうと思われます。

最古の海の地層に見られる石灰岩の痕跡は、形成から6〜7億年後の地球に安定して海が存在し、そこで二酸化炭素が吸収され、火山ガスによる二酸化炭素の放出とバランスして、ほどよい濃度が保たれていたことを意味しています。この時代に生命が存在していたかどうかは、まだ確実な証拠がなく、議論の多いところですが、地球が他の惑星と異なる特徴である、大量の液体の水=海の存在は、炭素の循環の上でも大きな役割を果たしていたことになります。

 生物がつくった構造として30億年以上前の地層から知られているものに、ストロマトライトという構造があります。ストロマトライトは「層になった岩」というような意味で、現在の地球ではオーストラリアのシャーク湾など数ヶ所で、シアノバクテリアという原核生物がストロマトライトをつくっていることが知られています。ストロマトライトは20年間で1cm成長していたという測定例があることから、年平均0.5mmという、非常にゆっくりとした成長速度を持っていると思われていますが、実際のストロマトライトは、数mm大の生物の殻が集まってできており、均等な成長速度ではなく、かなり突発的に成長していることが想像されます。じつはストロマトライトも石灰岩です。現在のストロマトライトはまさに石灰質の生物遺骸が集まった石灰岩ですし、古い時代のストロマトライトは石英分で置き換えられていることも多いのですが、形成時は石灰岩であったことがわかっています。ストロマトライトが盛んに形成された先カンブリア代(5.4億年前以前)は石灰質の殻を持つ生物はまだ誕生していませんでしたから、現在のストロマトライトのように、生物の殻の破片が集まってできるような構造ではないのですが、シアノバクテリアの繁殖により、そのコロニーのかたちに石灰分の沈澱が起きて、積み上がり、ストロマトライトをつくったものと考えられます。石灰岩は縞状鉄鉱などとともに生物がつくった最初の岩石のひとつかもしれません。

 石灰岩はマグマとして地上に噴出することもあります。大陸で見られる特殊な火成岩に、カーボナタイトという岩石があります。これはナトリウムやカルシウムの炭酸塩を主体とするマグマが冷え固まったもので、東アフリカの大地溝帯には、このカーボナタイトマグマを熔岩として噴出する火山が存在します。カーボナタイトは石灰岩の一種ですが、マグマとしてマントルでつくられ、タンタルやニオブなどのレアメタル鉱床の母体となっています。古いものでは27億年前のものが知られています。

 古生代(5.42.4億年前)に入ると、石灰質の殻をつくる生物が出現し、生物礁をつくるようになります。約5億年前にサンゴが出現すると、大規模な珊瑚礁が浅い海に大量につくられるようになりました。このような珊瑚礁でつくられた4億年前〜3億年前の古生代の石灰岩は、世界各地に分布しています。以後は二酸化炭素の地球規模での循環に、生物の石灰岩をつくるはたらきが、重要な役割を占めるようになっています。

 

写真1:

グリーンランド・イスアの石灰岩質変成岩の露頭

写真2:

オーストラリア・ハメリンプールの現世のストロマトライト断面

写真3:

現世ストロマトライト断面の顕微鏡写真。

(標本は伊津野郡平氏(東京大学)提供)

 

(萩谷 宏:武蔵工業大学知識工学部)