自然界には様々な放射性同位体が存在するが、それらは同位体ごとに違った速度で放射壊変を起こしていく。その中でも壊変がゆっくり進行し、非常に長い時間単位である地質時代を測るのに便利な同位体が何種類か存在する。そこで、放射性同位体の原子核が壊れる放射壊変を起こす前(親核種)の原子と、放射壊変を起こして変化したもの(娘核種)の原子の数の比率を求めることで、実験室で求めた放射壊変の速度(壊変定数、あるいは半減期)から岩石や鉱物の形成年代を求めることができる。
*炭素14法
炭素の安定同位体のほとんどは質量数12であり、少量の炭素13も存在する。しかし大気中の窒素14の一部が、大気上層で宇宙線によって放射性の炭素14にある割合でつねに変化しているので、大気中の二酸化炭素の中には炭素14がわずかに含まれている。炭素14は半減期5760年で崩壊し、もとの窒素14に戻っていくが、それとほぼ同じ割合で大気上層で炭素14がつくられ、大気中での炭素14はある濃度に保たれる。
生物は光合成により大気から二酸化炭素を取り込み、呼吸で放出し、全体として大気と同じ割合で放射性の炭素14をもっている。動物も自分で光合成をしないだけで、基本的なしくみは同じである。しかし生物が死ぬと、大気との炭素の交換がなくなり、生物遺骸中の炭素14は減少していく。この減少の割合から、生物が生きていた時代を求めることができる。
測定対象となるのは木炭や骨、貝殻など、生物源の炭素を含むものである。この方法では数万年前までの年代を求めることができる。それよりも古い時代の化石、例えば恐竜の化石には適用できない。また、太陽活動の強弱などの影響も受けるため、測定で得られた年代は補正が必要である。
*K-Ar法
地殻の岩石中には、カリ長石や黒雲母、角閃石などカリウムを含む鉱物が多く含まれる。カリウムには放射性のカリウム40が含まれており、放射壊変によってカルシウム40とアルゴン40に変化していく。このうちアルゴン40は鉱物の形成時にはほとんど含まれないので、ある鉱物に含まれるカリウム40とアルゴン40の比率を求めることで、鉱物が結晶してからの経過時間を求めることができる。ただしこの方法は、鉱物が加熱されると気体のアルゴンが逃げ出しやすく、年代値の若返りが起きることがあるので注意が必要である。
*Rb-Sr法、Sm-Nd法
造岩鉱物中に微量に含まれる、ルビジウム87やサマリウム147の放射壊変を利用した年代測定法である。これらの測定法では、娘核種の他の安定同位体との比率の初期値がわからないと、どれだけ放射壊変によって娘核種の増加が起こっているか、判別できない。そのため、アイソクロン法という手法が多く用いられる。これは、親核種の入っている割合が異なる鉱物や岩石の部分を複数選び取り、それぞれの娘核種の同位体比を求めることで、同じ時間が経過した時に、もともと親核種が多い場合は、娘核種がより大きな変化を示すことを利用する方法である。
*U、Th-Pb法
ウランやトリウムを含む鉱物では、放射壊変の娘核種として鉛の同位体が生成される。ウランやトリウムを含む鉱物では、形成時に化学的性質が異なる鉛は通常ほとんど含まれないので、年代測定がしやすい。また半減期が異なる複数の核種を用いた測定により、精度が高くなる。ジルコンという鉱物は、多くの岩石に含まれ、結晶が機械的にも熱的にも強いため、近年高精度の年代測定の試料として多く用いられている。
*地球の年齢を測る
地球の年齢といわれる約46億年前の年代は、地球の岩石からは得られていない。地球上の岩石で最古のものは約40億年前のカナダ北西部の岩石であり、鉱物片として44億年前という年代がオーストラリアの礫岩中のジルコン砂粒から得られている。
地球の年代は隕石中の鉛同位体と、地球上の鉛鉱石の鉛同位体との比較によって最初に求められた。地球の鉛はウランを含む岩石中にあるものが集められるため、時代が若くなるに従って次第にウランの放射壊変起源の鉛同位体割合が増加する。これに対し、鉄隕石中にはもともとウランがほとんど無く、その鉛同位体比は太陽系−地球形成時の値を保っていると考えられる。アメリカのパターソンらは地球のいろいろな時代に作られた鉱床の鉛の同位体を調べ、そのウラン起源の鉛同位体の増加曲線を描き、遡って初期値と一致する時点を調べると約45億年という年代がえられた。
さらにその後、太陽系の惑星を作った材料と考えられる隕石の年代測定が進み、最古の年代として45.66億年という値が得られていることから、一般に地球の歴史は46億年といわれるようになった。
地球のような大きな惑星の形成には数千万年の時間がかかったと考えられ、月の形成につながるジャイアントインパクトの影響もあり、地球の初期史は激動の時代であったと考えられる。
*石器の年代測定が難しいわけ
近年、旧石器時代の遺跡のねつ造が問題になったが、後の時代の石器を埋め込むだけで、古い時代の遺跡がつくられてしまった原因のひとつに、石器の年代測定の難しさがある。石器の素材となる岩石には炭素14法を適用することができないし、K-Ar法などで求められるのは岩石の形成年代であって加工された時点を表すものではない。そのため、石器の形成年代を直接測定するのは難しく、石器の出土した地層の層準から時代を判断したことが問題につながった。(加工してからの経過時間を求める方法として、放射年代ではなく誤差も大きいが、加工表面の風化層の厚みを測る、黒曜石水和層法などがある。)
−「理科年表ジュニア」第二版、丸善(2003)所収原稿を改変。
萩谷 宏 2003.3