大陸地殻の分離がかなり早い時期(〜43億年)だろうことは、オースト
ラリアのレキ岩中で発見された42.7億年前のジルコンの微量元素組成から、
15年以上前からいわれていたことです。
液体の水としての海の存在は、40億年以上前と書いてあれば問題ないと
思います。いったん海が出来ても、でかい隕石/微惑星衝突があると蒸発
してしまうので、〜39億年前の後期隕石重爆撃期があるとすれば、安定し
た海の存在はもう少しあとになるだろうということもあります。
で、話としてはこの延長で、より古い年代のジルコンを見つけたという ことのようです。ジルコンは花崗岩質マグマが固結するときにつくられる ことが多いのですが、その酸素同位体組成から、マグマ中に結構水が入っ ていたはずだという話で、その水の起源は、表層の水がプレートの沈み込 みで地球内部に持ち込まれたに違いない、という議論です。
オーストラリア西部のナリヤ山地域(Mt. Narryer - Jack Hills)のレキ
岩(約30億年前に堆積)中に、非常に古い年代を示すジルコンの砕屑粒子
(砂粒)があることが知られています。
ジルコンという鉱物は、年代測定の上では便利な鉱物で、微量のウラン・
トリウムを含みますが、半減期の異なる同位体ウラン238、ウラン235、ト
リウム232が放射壊変して最終的にできる、鉛の同位体(質量数206、207、
208)の比を調べることで、形成年代を精度よく求めることができます。
ジルコンは宝石にも用いられる場合があるように、非常に丈夫な鉱物で、
変成作用などの熱にも強く、地表の風化にも強い特徴があります。今回報
告されたジルコン粒子は、形態から見て、かなり複雑な歴史をもっている
ことが読みとれます。
ナリヤ山の地層がたまる前に、地上にあった岩石に含まれたジルコンの
粒子が地表で風化され、侵食を受け、地層の中に流れ込み、変成作用を受
け、隆起し、地表で風化され、侵食されて海底にたまり、地層の中に閉じ
こめられ、・・・という繰り返しがあったものと推定されます。
写真を見ると、ジルコン粒子の端の部分だけ、44億年の年代を示す部分 があり、他の部分は42.8-43.5億年の年代を示しているのですが、これは、 ジルコン粒子がマグマ中で形成されたあとで、他のマグマによる加熱や、 変成作用による再結晶のような事件があったことを示しています。さらに、 本来は外側に向かって年代が新しくなるように成長しなくてはいけないの ですが、一番古いところが外側にあるということは、何らかの破壊のプロ セスがあったわけです。
地層の中の砂つぶひとつで、ずいぶんと大きな話が組み立てられるわけ ですが、今回の発見の意義は、ひとつには地球の形成が比較的早い時期に 終了していた可能性を示唆するものと思います。44億年前で、充分地表が 冷えていて(=マグマオーシャンの終了)、海洋もあったとすると、地球 の初期史に関してちょっとイメージが変わるかもしれません。
ジルコンが晶出するようなマグマは、基本的には地球にしか知られてい ないので、水が沈み込み由来のものでない可能性は残りますが、とりあえ ずこの話はある程度信用できると思います。
2000.1.22 萩谷 宏