地質学会2001


沈み込みによって表層から除去された縞状鉄鉱の役割と量的推定
Estimation on the production rate of banded ironstone: -Role of subducted banded ironstone in early Earth.

萩谷 宏
Hiroshi Hagiya

 縞状鉄鉱は地球史前半の海洋における特徴的な堆積物であり、酸素の少ない大気・海洋条件の指標であると同時に、光合成生物の進化や、地球大気の組成的変遷を考える上で重要な存在である。

 2Gaまでのグリーンストン帯は、その多くが磁鉄鉱・赤鉄鉱などの鉄鉱物とチャートの互層である縞状鉄鉱を伴っている。これらは当時の海洋地殻上部をある程度代表すると考えられ、大陸地殻に挟まれて現在まで残存した、幸運なごく一部である。ほとんどの海洋地殻は、エクロジャイトよりも密度の大きい縞状鉄鉱層を載せたまま、マントル内に運ばれたであろう。

 地球史前半の縞状鉄鉱は、大気・海洋と地殻だけの閉鎖系のモデルで、マントルを除外した議論(Lowe, 1994)がなされてきた。また、地表に残された縞状鉄鉱の規模と年代分布から、その量や変遷が推定されてきた(Goles and Klein,1981)。しかし、海洋地殻とともに沈み込む縞状鉄鉱を考慮すると、鉄イオンと結びついた大量の酸素が、継続して表層から除去されていたことが考えられる。

 各地のグリーンストン帯の地質柱状図から、それらが当時の海洋底を代表しているものと仮定して、縞状鉄鉱の厚みを読みとり、海洋底の平均年齢をグリーンストン帯の年代幅で、プレートの沈み込みに伴ってマントルに持ち込まれる縞状鉄鉱の量が計算できる。そこから、縞状鉄鉱のFe3+の割合の平均値(Klein & Beukes, 1992)を用いて、結びついた酸素量を平均1.5wt%で計算した(付図)。

 その結果、縞状鉄鉱の沈み込みにより除去される酸素の量は、1016kg〜 1017kg/m.y.に達する可能性がある。これは上部マントル(1023kg)からすれば小さな量であるが、大気(6×1018kg/atm)や表層環境を考える上では無視できない。

 縞状鉄鉱中の有機炭素量は一般に低く、マントル内に沈み込んだ縞状鉄鉱を還元することは難しい。おそらく有機炭素は大半が別の場に堆積し、表層に残される。そのため、マントル内に沈み込む縞状鉄鉱のほとんどが、酸素のcarrierとして機能することになる。

 1016kg/m.y.の酸素を消費するのに必要な海洋中の鉄イオン(Fe2+)は、現在のおよそ10倍程度の供給率が必要であるが、高温で化学的風化や熱水活動が盛んであり、より還元的な環境であった初期地球では、不可能な値ではないだろう。

1)Isuaの縞状鉄鉱から、38億年前にはすでに、現在の100〜1000分の1程度の海水中への酸素供給があったことが推定される。

2)規模の大きさで知られるWitwatersrand BasinやHammersley Basinなどの縞状鉄鉱層(約27-25億年前)による酸素の固定量は、1015kg以下で、形成期間が107年のオーダーとすれば、地球全体の消費率の1/100程度でしかない。

3)現在の地殻中の有機炭素が、大気中の酸素と、地殻中の縞状鉄鉱や硫黄の量の合計に対し過剰であることが説明できる。


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1998.5.23 H.Hagiya