卒業試験問題(F3A選択ホ地学)

1997.1.27 2限実施 萩谷出題

以下の問題T〜Wに答えよ。

T
 高等学校の教科科目としての地学は、地球科学及び宇宙科学の広い領域にまたがる内容を扱っている。地学という科目は第二次大戦後に作られた科目であるが、戦前の科目「博物」の内容の一部が相当し、博物学(自然史学)の要素も強く残している。

 博物学は、今でこそ古くさい、役に立たない学問という印象を与えるが、今日の発展した自然科学諸分野の基盤にある学問のかたちである。人間の身の回りにある自然を、ありのままにとらえ、記載し、その起源を探ることが、博物学の姿である。したがって、記載し、分類するという作業が、まず必要になる。このような博物学の記載・分類の作業の中から、整理され、論理体系が明確になった事象や原理が、物理学や化学の体系として独立し、発展してきた。従って、近代以降の博物学は、自然科学という大きな枠組みから、物理学や化学などの分野を除いた、残りの領域であると考えられる。教科科目としての地学も、物理や化学との関係においてほぼこのような枠組みの延長にあるといっていいだろう。

 教科科目としての地学は、このような事情を反映して、単一の論理体系にのらない、雑多な知識の組み合わせと見える部分がある。しかし、それは、先に対象としての地球や宇宙の事物や現象があって、その本質を解き明かすためには手段を選ばないという自由さを残しているということでもある。

 地学は新しい学問領域の集まりでもある。その多くが今世紀に入ってからの知識からなる。観測・分析手法の進歩を反映して、現在も新しい認識が次々と生み出され、教科書の内容もこの20年の間にかなりの部分が書き換えられている。

 教科地学の内容を学ぶことの現代的な意義は、次の2点にまとめられるだろう。

1)われわれの周囲の自然の姿をよく知り、我々の世界観を広く深く豊かにすること。
2)自然災害や環境問題に対する基礎知識を提供すること。

 このような視点から、これまで地学で扱ってきた、宇宙、固体地球、気象・海洋の内容から、自由にひとつテーマを選んで、君が学んできたことの要点を簡潔にまとめよ。 解答の形式は問わない。どうしても要約できない場合は、センター試験の出題などで覚えている問題と解答を述べることも可とする。
(次のUの問題文は地球史をテーマに選んだ場合の解答例でもある。)

U 文章中の空欄に最適の語句・数字を、語句欄の候補から選んで、その番号を記入せよ。

 地球の歴史は、生命の歴史といってもよい。地球は、主に( 1 )の情報から、太陽系の形成とほぼ同時の約( 2 )億年前に形成されたと考えられている。太陽や地球を含む太陽系の天体は、起源が同じであることが、太陽大気のスペクトルや( 1 )の情報から求められている( 3 )が一致することから推定される。( 1 )の中からは、生命の材料物質であるアミノ酸も検出されている。

 現在、地球上で最古の岩石は約40億年前のものが、また最古の海の地層には38億年前のものが見つかっているが、この中からは生物体を作っていたと思われる炭素の痕跡もごく最近見いだされている。最古の化石と認められているものは、約35億年前の光合成生物である( 4 )などの化石である。

 約20億年前になると、真核生物と呼ばれる、より高度な機能を持つ生物の化石が見いだされる。細胞内にミトコンドリアや葉緑体を共生させた真核細胞の出現により、多細胞生物の発展の基礎ができ、生命の歴史にあらたな局面が開かれた。約10億年前には多細胞生物(動物)が現れたと考えられている。これらの時代は地質時代の上では( 5 )と呼ばれており、産出する化石が少ないことから、これまで研究があまり進んでいなかったが、( 5 )末期の約6億年前には、( 6 )などの殻を持たない多細胞生物が繁栄していたことが化石からわかっている。  ( 7 )と呼ばれる時代になると、殻を持つ生物が出現し、化石となって発見される生物の種類が急速に増加する。( 7 )初期には( 8 )のような生物が繁栄した。( 7 )中期には、珊瑚礁をつくる( 9 )などの生物が発展した。このころ、魚類の中から陸上生活に適応した両生類が現れた。この時期以後、( 7 )後期にかけて、陸上に石炭の材料となった( 10 )の森林が発達し、その森林の中で脊椎動物も発展していった。両生類の中から、より乾燥した気候に適応した( 11 )が現れたのもこの時期である。

 ( 12 )に入ると、ひとつにまとまっていた大陸が分裂をはじめた。ほぼ同じころ、( 11 )の中でも、陸上で( 13 )が爆発的に進化を始めた。また、海では頭足類の仲間である( 14 )が種類を増やしていった。中生代を通じて繁栄した( 13 )や( 14 )は、約( 15 )万年前に絶滅し、これ以後を( 16 )と呼ぶ。( 16 )では( 11 )にかわって( 17 )や鳥類が繁栄し、現在に至っている。( 16 )は第三紀と第四紀に分けられるが、第三紀はさらに古第三紀と新第三紀に区分される。古第三紀の代表的な示準化石は( 18 )があり、新第三紀の示準化石としては( 19 )が有名である。新第三紀には日本列島が大陸から分かれて、厚い火山性の地層が堆積した。これを一般に( 20 )という。新第三紀の後半から地球は全体として寒冷化し、( 21 )や針葉樹の森林が広がった。第四紀に入る頃から氷期−間氷期のサイクルが始まったと考えられている。この時代に、特に寒冷気候に適応した( 22 )などの動物も現れた。我々人類の祖先は、この氷河時代を、道具や技術をもつことにより乗り切って、現在の文明を築いたのである。

【語句欄】
 1)23、2)46、3)6500、4)クロレラ、5)三葉虫、6)クラゲ、7)シアノバクテリア、
 8)先カンブリア時代、9)新生代、10)中生代、11)古生代、12)クサリサンゴ、13)キノコ、
 14)シダ植物、15)裸子植物、16)被子植物、17)マンモス、18)始祖鳥、19)アンモナイト、
 20)恐竜、21)カヘイ石、22)ビカリア、23)ピカイア、24)グリーンタフ、25)爬虫類
 26)隕石、27)花崗岩、28)玄武岩、29)質量数、30)元素存在度、31)同位体組成
 32)昆虫、33)哺乳類

V A,Bいずれかを選んで解答せよ

A 別紙の文章(A)について、

 筆者が今こそ必要だとしている、「ナチュラル・ヒストリー的思考」とはどのようなものか、120字以内で説明せよ。

B 別紙の文章(B)について、

 当時3大陸は隣接していたとする説の根拠となっている事実を、本文の内容に基づいて120字以内の日本語で簡潔に述べよ。

W 君の住んでいる地域で、君がこれまでに実際に観察した地学的現象ひとつについて、簡単に記述せよ。地質・気象・天文・陸水・海洋などいかなる分野でも構わないが、地学の授業などで得た知識でその現象を自分なりに解説すること。

(例)放射冷却現象−利根川の河川敷上空にたき火の煙が滞留して逆転層ができているのがわかる。川面に霧が生じている。説明:地表からの赤外放射が雲による吸収・反射なしに大気を通過するため、夕方−夜間−明け方に著しく地表の温度が低下する。

以上